基本的な対策を学ぶ

女性の更年期

女性は人によって違いがありますが、40代後半から50歳前後位で閉経を迎えます。閉経と同時に女性ホルモンの分泌量が急激に減り、自律神経の働きが崩れることにより、身体の不調を訴える人がいます。これを「更年期障害」といいます。
更年期は医学的にみると成熟期から老年期までの移行期間であり、そのアラームサインとも言えます。
そして、更年期以降は女性ホルモンの分泌量の分泌量が減少することで体のあちこちで不調が起きやすくなります。

更年期の代表的な症状

減少していく女性ホルモンと更年期障害

エストロゲンなどの女性ホルモンは主に卵巣から分泌されています。一般的に卵巣は30代の後半頃より徐々に衰えはじめ、女性ホルモンの分泌量も減少していきます。
このような状態になると、脳の下垂体は卵巣に対して女性ホルモンをもっと分泌するよう司令を出します。しかし閉経前後の老化した卵巣はこの指示に応えることができず、脳は更に分泌を促す司令を出します。このように、女性ホルモンの分泌量が著しく減少し、女性ホルモンの需給のバランスが崩れることで自律神経を不安定にし、不快な体や心の症状を引き起こすのです。

主な更年期の症状

女性の更年期の代表的な症状は、のぼせ、ほてり、発汗などのホットフラッシュです。これらは、閉経を迎えてエストロゲンなどの女性ホルモンの分泌量が著しく減り、自律神経の働きが崩れることにより起こります。このほかに、疲れやすい、めまい、頭痛、頭重、耳鳴り、だるい、肩こり、腰痛、皮膚のかゆみ、手足の冷え、手足のしびれ、下痢または便秘、動悸、息切れ、食欲不振、気分の落ち込み、物忘れ、性欲減退などのようなさまざまな症状が起こることがあります。個人差があり、何も感じない人もいれば、重い症状が7~8年も続く人もいます。日常生活に支障がでるような重い症状を「更年期障害」と呼んでいます。

    • 女性更年期の臨床症状(頻度順)(日本臨床男性医学研究所調査)
      (1)神経質(主観的)
      (3)興奮状態
      (5)抑うつ状態
      (7)漠然痛
      (9)めまい
      (11)不眠
      (13)神経症
      (15)視野暗点
      (17)寒気
      (2)のぼせ
      (4)疲労
      (6)便秘
      (8)頻脈、心悸亢進
      (10)記憶力、集中力減退
      (12)頭痛
      (14)頸背部痛
      (16)知覚異常

      【月経異常 99%  無月経 58%】

女性更年期の治療

ホルモン補充療法

更年期、または更年期以降のホルモン量が低下した状態の方に行う「ホルモン補充療法」があります。
医療機関で女性ホルモン(エストラジオール、プロゲステロン、FSH、LHなど)やその他のホルモン分泌量を調べる検査を実施し、できるだけ安全に必要最小限の補充を行うことが大切です。うつ症状が強い患者には、抗うつ剤が処方されることもあります。
使われる薬剤は、エストロゲンとプロゲステロンの合剤や、エストロゲンのみのもの、天然成分のもの、高用量、低用量のものなど様々な種類があります。また、内服薬(錠剤)、皮膚に貼るパッチ剤や皮膚に塗るクリーム状のものなど、様々なタイプ他ありますので、医療機関で正しい診断のもと、その人に合った処方を行っていただくことが必要です。
ホルモン分泌量の検査は、「アンチエイジングドック」「ホルモンドック」を行っている医療機関で行うことが出来ます。
※くわしくは「ホルモン補充療法」「アンチエイジングドック」をご覧ください

更年期以後に起こる様々な不調

女性ホルモンの分泌量は更年期以降も激減します。
また、女性ホルモンだけでなく、年齢とともに様々なホルモン(「甲状腺ホルモン」「成長ホルモン」「メラトニン」「DHEA」)が減っていきます。※くわしくはホルモン補充療法をご覧ください
体全体を守ってくれるホルモンの分泌量がが減少することにより、様々な体の不調が起きやすくなります。

物忘れ

エストロゲンの分泌量が減ると物忘れをしやすくなります。特に短期的記憶の低下がみられます。
最近の遺伝子研究で、エストロゲンには脳の神経細胞を守る働きがあり、アルツハイマー型認知症を抑えるという説が有力です。
認知症には生活習慣と心の持ちようも影響していますので、人とコミュニケーションをとり、積極的にいろいろなことにチャレンジしてみましょう。

髪のトラブル(薄毛、白髪)

年齢とともに髪が細くボリュームがなくなり、髪のうねりが出て髪質も悪くなります。白髪も増えて髪のトラブルに悩む方が増えてきます。
薄毛の主な原因は、血流の低下や女性ホルモンの分泌量の減少などです。頭皮の毛根(毛母細胞)に栄養が行き渡らなくなり、髪質が変化します。女性に多い薄毛のタイプは、頭頂部とサイドを中心に全体的に薄くなる「びまん性脱毛」です。さらに、女性ホルモンの分泌量が減り、男性ホルモンが相対的に優位になることで、額からM字型に後退してトップが薄くなる「F-AGA」と呼ばれる女性における男性型脱毛が混ざる人もいます。
薄毛の対策として、紫外線ケア、保湿、正しい洗髪を行うことが基本です。シャンプー前に頭皮の血行を促進することも有効です。また、市販の医薬品や医師の処方が必要な医薬品(現在、発毛効果が認められているのは「ミノキシジル」)の使用も可能です。
※くわしくはヘアケアをご覧ください

肌の老化

エストロゲンの分泌量低下により肌のコラーゲンやヒアルロン酸の生産量が落ち、皮膚の弾力やみずみずしさが失われていきます。ハリがなくなり、細かいシワが目立つようになります。また、この他のホルモン分泌の低下も影響し、色素沈着が起きやすくなり、シミや肝斑が目立ったり、唇が薄くなったりします。
有効な対策としては、食生活に気をつけて、運動習慣や質の良い睡眠で内側から改善がおすすめです。

血管の老化(高血圧・動脈硬化)

エストロゲンには血管拡張作用があり、脂質代謝やインスリン分泌にも関わっており、脂質や血圧、血糖を適度にコントロールしています。閉経によるエストロゲン値の減少で、LDLコレステロールや中性脂肪が増えたり、血圧や血糖値の上昇を招きます。血管の自然な老化にこれらの負荷が加わると動脈硬化が加速します。動脈硬化により、血管が詰まりやすくなり、心臓の周りに起きると狭心症や心筋梗塞、脳の血管で起こると脳梗塞につながります。
「脂質異常症」「高血圧」「高血糖」の数値に注視し、食事、睡眠、運動の生活習慣の改善を図りましょう。

骨粗しょう症

体の骨は、「破骨(はこつ)細胞」が骨を壊し、「骨芽(こつが)細胞」が骨を作るという過程を繰り返して、常に骨を作り変えています。女性ホルモンのエストロゲンが「破骨細胞」の働きを抑え、「骨芽細胞」を促進しています。更年期でエストロゲンの分泌が減ると「骨芽細胞」の働きが弱まり、「破骨細胞」が優位になるため、骨を作る作業が間に合わなくなります。そのため骨量が急速に減少し、骨がスカスカの状態になる骨粗しょう症になりやすくなります。
骨粗しょう症になると、骨折のリスクが大幅に増え、背骨が潰れる圧迫骨折を起こすこともあります。もっとも危険なのは大腿骨頸部(太ももの付け根)骨折です。
骨粗しょう症は自覚症状がありません。急激に骨量を上げることも難しく、骨密度の低下をできるだけ早期に食い止める事が大切です。定期的に骨密度の測定を行いましょう。(医療機関で測定可能。骨密度が成人平均値の80%以上なら正常、70~80%なら骨量減少、70%未満なら骨粗しょう症です)
日頃から骨の健康のため、1日15分ほど戸外で運動し、カルシウムやビタミンD,ビタミンKなどを補給しましょう。

肥満傾向

年齢とともに基礎代謝量が下がり、今までと同じ食事量でも自然に体重は増えていきます。
さらに、エストロゲンをはじめとする各種ホルモン値の低下により、以前よりずっと脂肪がつきやすくなり、お尻や太ももには、プロゲステロン値の低下の影響でセルライト(脂肪と老廃物、水分等が混じり合ったもの。お尻皮膚の下のデコボコしている脂肪の塊)が溜まりやすくなります。
有酸素運動を心がけましょう。特に内臓脂肪の多いタイプの肥満の人は血中の中性脂肪や悪玉コレステロールを上昇させ、動脈硬化を進める原因となるので、注意が必要です。

だるさ、倦怠感

「だるい」「疲れやすい」更年期が終わっても、倦怠感や疲労感に悩まされる場合があります。
このような不調にも、各種のホルモンが関係している場合があります。甲状腺ホルモンや女性ホルモン、成長ホルモンの分泌の低下に伴い、免疫力が落ちて疲れが取れなくなったり、風邪をひきやすくなったりする等、慢性的な不調が起こりやすくなります。免疫力の低下により、ウイルスに感染しやすくなったり、重大な病気の心配も増えてきます。
生活を見直して、免疫力を高める生活をしましょう。

監修医師の紹介

浜中先生

浜中聡子 先生(医学博士)

クレアージュ東京 エイジングケアクリニック 院長

北里大学医学部卒業。

女性ホルモンに着目し、心身ともに健康で充実した毎日をすごすことができるよう、医学的見地からのサポートを行い、多くの女性から高い信頼を得ている。著書に『アフター更年期からの不調を治す50の習慣 』『髪をあきらめない人は、3つの生活習慣をもっている: 専門医が教える、髪のエイジング対策法』など。

日本抗加齢医学会、国際アンチエイジング医学会(WOSSAM)、米国抗加齢医学会(A4M)、米国先端医療学会(ACAM)、NPO法人アンチエイジングネットワーク顧問