アンチエイジングニュース

「老化防止薬:食時制限をしなくてもよい薬」
――ハセ博士のヘルシー情報最前線(246)



ご存知のように、
カロリーを摂りすぎないことが健康で長生きの秘訣です。

昔から「腹八分目」とか
「仙人はカスミを食べて
長生きする」と言われてきました。

実際カロリー制限をしたマウスは長寿できることが最近の科学的な研究で明らかになっています。
しかし、いくら長生きできるからと言って、目の前の空腹は避けたいところですよね。

そこで今回は、そのような食事制限をしなくとも長寿が可能となる薬の開発のお話を
ご紹介します。

これは米国の有名な科学誌Science (2009, Oug. 2nd Issue)に、ロンドン大学教授のDominic J. Withers博士らが報告したものです。

研究では遺伝子操作により、S6K1と呼ばれる蛋白を産生できないようにしたマウスを
作りました。
このS6K1が欠損することで、厳格な食費制限をしなくとも、それと同じような現象を与えます。

ちなみに、このS6K1はS6キナーゼ1と呼ばれる酵素で、この酵素をもたないマウスは
グルコース不耐性などの糖尿病関連症状を示すにもかかわらず、
インスリン感受性がきわめて高く、空腹時血糖値も正常であることがわかっています。

すると、このマウスは糖尿病だけでなく、加齢性の疾患にも罹りにくくなっていることが
わかりました。実際、雌マウスでは寿命が19%延長していたそうです。
この通常より19%長く約950日生きた雌のマウスは比較的痩せており、骨が強く、
2型糖尿病に罹りにくかったほか、頭がよく好奇心の強い傾向
がみられた
ということです。
さらに、免疫系で重要な役割を担うT細胞にも「若さ」がみられ、
加齢による免疫力の低下が抑制されていることが示されました。

なお残念ながら、雄マウスにはそのような寿命延長はみられなかったそうですが、
その他の健康効果は雌と同様にあったと言う事ですので、やや安心です。

さてこの研究では、遺伝子操作という手法を用いていますが、
同様の効果は薬剤を用いてもおこる可能性があります。
最近の報告によりますと、ラパマイシン(日本国内未承認、主に移植患者に使用される
mTOR阻害薬)という薬がマウスの寿命を延ばしたことが報告されています。
また研究者の間では、糖尿病薬のメトホルミンにも同様の効果があるのでないか
ささやかれています。

もちろん、ヒトでも同様の効果があるかは今後詳しく調べる必要がありますが、
このような薬が実際に抗老化にも有効であるならば、
仙人のように、あまり快適な生活とはいえないような山にこもり、食べ物を制限する必要がなくなります。

もっとも、私は仙人の暮らしにも憧れますが・・・。

ハセ博士=薬学博士。国立大薬学部や米国の州立大医学部などで研究や教官歴がある。現在は製薬企業で研究に従事している。

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