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“アンチエイジングな食生活”を抗加齢医学の権威に伺う~前編

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“アンチエイジングな食生活”を抗加齢医学の権威に伺う~前編~

アンチエイジングネットワークでは定期的にアンチエイジング意識調査を行っている。今回の調査で「ご自身のアンチエイジングとして心がけていることは何ですか?」という質問への回答の第1位は「食事」。次に「運動」「睡眠」と続く。生活のベーシックな要素こそ、アンチエイジグの鍵だと考えている方はやはり多いという結果だ。しかし、分かってはいても、身についてしまった生活習慣を変えるのは、なかなか難しいのではないだろうか。更に、アンチエイジングに関する情報や商品が氾濫する現代社会では、食事ひとつとってみても「何をどうすべきか」を判断するのは困難。
そこで今回は、「アンチエイジングを実践する食生活の基本」について、順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授、白澤卓二氏にお話をお伺いした
白澤教授はアンチエイジング医学を語る上では欠かせないドクター。疾患予防や認知症予防と食材の関係、長寿遺伝子研究の権威である。三浦敬三氏・三浦雄一郎氏といった、著名アスリートの遺伝子研究や食生活のプロデュースもされている。また、多数のアンチエイジング料理レシピ本の監修も手掛けられ、「簡単かつ低カロリー」をキーワードに魅力あふれるメニューを紹介されている。アンチエイジング医学の最前線でご活躍中の白澤先生に、直接素朴な疑問をぶつけられるまたとない機会を得た記者。「お金をかけず」「気軽に」「毎日続けられる」アンチエイジングのヒントやアンチエイジング医学にまつわるお話を、丁寧にわかりやすく解説いただいた。誰もが簡単にできるアンチエイジングノウハウに加え、アンチエイジングとホルモンについての興味深い最新情報もお伺いすることができた。ぜひ、最後までお読みいただきたい。

―― 内側のアンチエイジング――

Q:アンチエイジングの基本的な考え方を教えください。

白澤先生:アンチエイジングは自分が20年後、30年後にどうなっていたいか。その目標に向かうためのものです。今現在は、アンチエイジングとは「若々しく見える」ことだと考えていらっしゃる方も多いと思います。例えば、40代の方ならクラス会で、「若くみえるグループの中に入るための秘訣は何か」というのが、直近の問題でしょう。しかし、20年、30年たった時には介護予防になる。人に迷惑を掛けないで生活が自立している事が、70歳80歳では「若々しい」ということ。介護予防が旨くいくと、僕らが言う「サクセスフルエイジング」とか「長寿」「百寿」というレベルになります。それが人生の連続線状にあるという意識を十分に持つことがアンチエイジングの考え方です。

Q:介護予防はどのように達成できるのでしょうか?

白澤先生:骨粗しょう症や認知症といった、介護の原因になる疾患を予防していく食生活や運動を考えていくことです。つまり予防医学を実践していくのが、アンチエイジングの連続線状にあると認識してください。皮膚のアンチエイジングも大切ですが、皮膚では死なないし、介護の耐性にはならない。あくまでも内側のアンチエイジングというのが、介護の対象になる。最終的には内側をしっかりしてくと外側から見ても若々しく見えるので、内側を重視しているのが私の考え方です。

Q:内側がしっかりしていると、見た目も若々しく見えるということですか?

白澤先生:いろいろな動物実験のデータから、身体の中を構成している細胞の老化のスピードが遅ければ、細胞の錆つきが少なければ、外側からみて非常に若々しくみえるというのが明らかになっています。カロリー制限をしたアカゲザルの実験結果でも、内側をしっかりアンチエイジングしていれば、外側からも若々しく見えるとわかりました。好きなだけ食べていたアカゲザルと、カロリー制限をしたアカゲザルを比較すると、毛ヅヤが良く皮膚にはりがあり、シワもなく、血液も若かった。身体の動きも機敏で脳の活動も若々しいというデータを得ました。ですから、内側はボロボロなのに、外側だけ塗っていたとしても、必ず内側の錆が外側に出てきて、外側をカバーしきれなくなる時が来るだろうと思われますね。

Q:同窓会で「若い」「老けた」以外に「年相応」という括りはないのですか?

白澤先生:二つに分かれるでしょう。40代を過ぎると老け組と非常に若々しい組に明らかに分かれます。後は、差が開いていく。例えば、外見が気になる人は毎日鏡みていると思いますから、日々の変化はなかなかわからない。クラス会に行って20年ぶりに同級生と会ったりすると「なんで自分はこんなに老け組に入ったのだろう」とハッと気がつく。それはチャンスでもあります。

Q:我に返って、見た目のアンチエイジングに走る人とライフスタイルの改善に取り組み人と、また分かれますよね?

白澤先生:ライフスタイルを見直す人は40代では極めて少ないでしょうね。まず、40代の同窓会で、若い組に入った人はその人自身ではなく、家庭環境がしっかりしていると思いますよ。元をただせば子供の頃の食事や生活スタイルが大切。そこをしっかり叩き込まれたはずです。自分でライフスタイルを見直そうと気がつくのは50過ぎてからですよ。40代の特に男性は仕事の方が重要ですから、定年後のことは二の次になる。当たり前の話ですが、20歳の人が老後のことは考えない。結婚や仕事のほうが、圧倒的に人生にとって大きな要素になっています。老後の話は、先送りする。30代もその延長にあります。ところが、50歳位になると、だいたい人生の頂点が見えてきたり、子供が巣立ったり、社会的に責任が減ってくる。そこでようやく自分のことを見られるようになる。そこで自分を見直した時に、やっぱり内側の健康を保つことが大事だと気がついた人は、そこからスタートでしょうね。私は遅くないと思っています。それは、アルツハイマー病の脳の変化が起きるのは50~55歳と言われていますので。また骨そしょう症で、骨がどんどん失われていくのは閉経後です。なので、やはり50過ぎ。もちろん30代、40代で貯金しておいたほうが圧倒的に有利です。しかし、介護予防の本格的なスタートが50歳であれば遅くない。そこから維持していけば、崩れないで済むということですね。

―― アンチエイジングな食生活 ――

Q:何をどうスタートすればいいのでしょうか?

白澤先生:食生活を変えるのは結構大変な事だと思います。糖尿病を患ったり、何か異常値が見つかって、治療目的で栄養士さんから指導を受けて変わることはありますが、そうでない場合は、非常に難しいでしょう。例えば、単純にダイエットする場合でもちゃんとした食事の方法で、ダイエットをする人は少ないと思いますよ。今は色々なダイエット法が一杯あり、みなさん飛びつきますよね。バナナダイエットとかキャベツダイエットとか。長続きしそうもない方法にね。

Q:ついつい飛びついてしまいます…。それを繰り返すと老化につながりますか?

白澤先生:そう思います。そういうダイエットの特徴は単品。単品だからわかりやすいですが、単品では栄養が偏るのでダメです。

Q:確かに自分の食生活を変えるのは難しいですが、いい方法はありますか?

白澤先生:まず、自分が変わらなくても、ご家庭でしっかり栄養管理をされた料理を、ご自身が素直に食べる方がいいと思います。その場合は、本人の意識レベルがそれほど高くならなくても、お任せすればいいということになります。けれども、一人暮らしの方や一般的なサラリーマンの方であれば、やはり外食が多く、夜は接待やお付き合いもあるでしょう。お昼は社食やオフィスに近いお店に行く。そうすると家で食べるのは朝食だけになる。朝食だけじゃだめですよね。家庭でどんなにいい食事をつくってもらっても。そういう時には自分自身がちゃんとしたものを選択する知識と判断力が必要です。

Q:簡単に済ませたいので、ファストフードも利用してしまいます…

白澤先生:今の時代は、ジャンクフードが沢山ある。本物もありますが、本物が非常に見えづらくなっている。ちゃんとした知識を持ってないと、本物が選べない時代に入っています。「健康にいい」と書いてあっても、本当に健康にいいかどうかわからない。健康に悪いなんて書いてあるものはないですからね。どれが本当に健康にいいかを判断するためには知識がないと、非常に難しくなっている

Q:基本の知識を身につければいいのですか?

白澤先生:それがまた難しいです。一番いいのは、家に帰って夕食を食べて、お昼は定食で、お酒は定量の限度を守って、タバコは吸わない。このぐらいしとけば、まずはいいと思います。そんなにマニアになる必要はないと思います。
なぜ定食がいいかというと、丼物ものは、丼の中に食材が全部一緒にバーっと入っていて、しかも油が多い。定食は別になっています。ご飯の量を多くしなければ、バランスは取れていると思います。
定食にはお魚物とお肉物とがありますので、月水金がお魚であれば、火木土はお肉と交互に選ぶというのが、サラリーマンのランチタイムの賢い選択です。

―― アンチエイジングには食物繊維が必須 ――

Q:定食を選択すれば、ある程度、体調の変化を実感できますか?

白澤先生:もうひとつお話しておきます。私がよく行くサラリーマンのお店で、定食を見ていると、野菜が少ない。食物繊維の量が足りないです。1日量にして、30g程の食物繊維をとったほうがいいと考えています。栄養調査をすると、日本人は年齢層にもよりますが、20gしかとれていない。理想的な量の2/3程度、もしくは少ない人は半分程しかとれていないと思われる。

Q::食物繊維を多く摂ると、どういう変化が身体におきてくるのでしょうか?

白澤先生:まずお腹がすかない。どうしてお腹がすかないかと言うと、炭水化物やコレステロールの吸収がなだらかになるので、食べた時の血糖のアタック、つまり急激な血糖や中性脂肪の上昇を抑えられます。緩やかに上がっていって、下がるのも緩やか。すごく腹もちがいい。食物繊維が少ないと、急に上がって急に下がる。下げようとするホルモン(インスリン)が出ます。お昼12時にガッツと食べて、3時か4時に、すごくお腹がすいたり、お菓子食べたくなったり、イライラしたりする原因です。そのイライラした体験から、より脂っこいものを食べれば腹もちがいいと考えて、丼物をサラリーマンは選ぼうとするのです。そういう方たちはお魚定食を選ぶと「お腹が持つのかな?ダイジョウブかな?」と思うはずです。でも、それは考え方が間違っていて、ボリュームではなく食物繊維が足りないのです。食物繊維を増やしていくと、そのイラつきがなくなります
女性に関しても同じで、甘いものを10時頃や3時頃に身体が欲してくる方がいませんか?その原因は、例えば朝食をコーヒーショップの甘いドリンクやスコーンで済ませていませんか?その場合、食物繊維はほぼゼロですから、急激に血糖値は上がります。その直後は幸せになって、10時位まではオフィスでいい調子かもしれないけど、11時過ぎると急にイラついてくるのはリバウンドが起きてきる証拠。食物繊維が足りないからです。そうするとそこでもう一度、砂糖や生クリームを取り入れると、一旦それが落ち着いてまた幸せな気分になる。それを繰り返しているわけです。

Q:そういう人はいっぱいいますね。私も食物繊維が足りてない…

白澤先生:私がコーヒーショップに入ると選択できるものが何もないです。食物繊維が入っているものがほとんどメニューにない。もしも、そこを朝食替わりに利用しているとしたら、決定的な間違いを犯している。よく朝ごはんを抜くなと私も書いていますけれど、もっと大きな間違いは、コーヒーショップなどで糖分たっぷりで食物繊維ゼロの朝食をとっていること。そして血糖値の急低下のいらつきを解決するために、甘いものをとろうとまたお店に行くことになる。ある意味、身体が洗脳されている。一番よくないのが、生クリームや砂糖がたっぷり入った飲み物。それにプラスして、トランス脂肪酸の塊みたいなドーナツの組み合わせ。これは脳がいかれますので気をつけてください。

Q:気軽に立ち寄れるのは魅力なんですけど…

白澤先生:ジュース・バーに行けばいいんです!もしくは、野菜ジュースをつくればいいんです。食物繊維たっぷりの。私は毎朝、野菜ジュースを飲みます。食物繊維が多い野菜を使えば、300CCぐらいで10gはとれると思います。

Q:それなら、やれそうな気がします

白澤先生:やれますよ。駅にも時々ありますよね、ジュース・バー。そこに寄ってもらえばいい。野菜スープでもいいですよ。

Q:市販の野菜ジュースでもいいですか?

白澤先生:食物繊維が少ないのでお勧めしません。ミキサーで生野菜をバーンとかき混ぜてつくるのがいいです。お勧めはりんご+小松菜。りんご+ブロッコリー。そこに豆乳を入れるといい。私が監修した「健康ジュース」の本のレシピを活用してください。食物繊維をとることで、満腹感が長持ちすることはメタボリック予防にもつながります。

―― 後編へ続く⇒●アンチエイジングな食生活のノウハウ

白澤卓二先生
●略歴
1958年神奈川県生まれ。
千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。
同大大学院医学研究科修了、医学博士。
東京都老人総合研究所病理部門研究員、同神経生理部門室長、
分子老化研究グループリーダー、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダーを経て現職。 専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学、アルツハイマー病の分子生物学、アスリートの遺伝子研究。著書に「老化時計」「長寿と遺伝子」「アンチエジング・クッキング」「健康寿命を延ばす」「100歳まで元気に生きる食べ方」などがある。
●順天堂大学 大学院医学研究科 加齢制御医学講座

 

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