アンチエイジングニュース

“顔のアンチエイジング”を美容医学の権威に伺う

乾燥が気になるこの季節、女性にとって顔の肌の手入れも難しい。「乾燥がなぜ肌に良くないか?」「その対策はどうすべきか?」、更には「美肌を保ち、アンチエイジングするためには、何を気をつけるべきなのか?」等など、今回は東京大学医学部形成外科の吉村浩太郎先生にお話を伺がった。吉村先生は美容医学、形成外科の研究と同時に医療現場で「顔の肌のアンチエンジング」の診療にご活躍であり、この分野での権威でおられる。女性なら誰もが知りたい「顔の肌」についての素朴な疑問をここぞとばかりお尋ねし、貴重な示唆に富んだご教授をいただけた。これは女性ばかりでなく男性にも大変に役立つお話になったと感じている。

―― 肌の乾燥について ――
 
Q:乾燥は肌を痛め、老化を進めるのでしょうか?

吉村先生:乾燥自体が老化を進めるというより、肌が保護されていないことが問題なのです。肌が若々しく見えるのは皮膚の水分がしっかり維持されていて、張りがあることなのですが、その肌の水分を守るのが角質と皮脂であり、それが肌のバリアになっているのです。極端に言えば、椿油でもオリーブ油でも、その油を塗って肌を被って“保湿”をすれば、乾燥が防げる訳です。しかし、誰でも自分の肌を保護する為に、皮脂を出していて、一応“保湿”をしている。それを洗い落とさなければ、とりあえず肌はある程度守られているのです。

Q:肌の脂がないことが老化の原因となるのですか?

吉村先生:肌の皮脂がなくなると、肌の水分が抜けてみずみずしさが無くなるだけでなく、もう1つ外界からの色々な刺激・ストレスからの保護という重要な役割も消えてしまうのです。その様に皮脂は二つの役割をして肌を守っているのです。女性方がメイクアップを落とす時きれい好きな方が顔の隅々まで一生懸命洗って、皮脂や角質まで落とすのは良いとして、そのあと肌を守るための手入れを充分にすることを忘れないでください。物臭で顔も洗わない人のほうが、洗顔後のケアが足りないきれい好きな人より得をしていて、むしろ皮脂で肌が守られているといえますね。水で顔を洗うのは脂を落とさないのですが、石鹸で洗うと脂が落ちてしまう。洗顔クリームもやはり界面活性剤が入っているのでそれが脂を水へ乳化させて全部落としてしまうのです。それらを使った後は、必ずスキンケアの手入れが必要なのですよ。また加齢とともに皮脂分泌が低下してくるので、皮膚の乾燥が進みみずみずしさが落ちてくることが、老化を進める原因となっていると言えます。

Q:皮脂が取れると炎症が起きるといわれましたが、
赤く張れたりしなくても炎症が起きるのですか?

吉村先生:いい質問ですね。肌に外から色々なストレスが加わると、微かな炎症が起こるとされています。ここでいう炎症は、血管が弛緩して広がり血が集まって局所が赤くなるというような強い局所反応ではなく、非常にマイルドな反応で、皮膚細胞が生化学的変化を受ける程度の変化ですが、それが長く続くと、皮膚が痛んでくる訳です。乾燥、強い日焼けや間違ったスキンケアなどでも、この炎症が起きてくるということです。炎症は、幹細胞を浪費するとともに、色素細胞のメラニン生産を早めます

Q:そんなに簡単にその様な炎症が起こるのですか?

吉村先生:皮膚の炎症はちょっとしたことで起こるのですが、反応が起こるとその部分の皮膚の表面の角質がとれてきて“因幡の白兎”みたいにバリアのない状態になって、更に炎症が悪化し易い状態になって悪循環が始まる。そうして慢性炎症になってくると、常に外的ストレスにさらされ易くなっているので、身体の対応として免疫機構が働かなければならない状態になってくるのです。

Q:じゃあ、炎症で免疫機能が起こされて働いているうちに、
次第にエイジングにつながってくるわけですね。

吉村先生:要するに、本当は皮膚組織には炎症や傷害がなく、皮膚の幹細胞にはズーット寝ていて欲しい訳で、寝た子を起こしちゃいけない。これはどの臓器にも共通していることで、この日常的な炎症の影響が老化の実際の大きな部分を占めているかもしれないですね。炎症は酸化ストレスになっている訳で、長生きすればするほど、炎症の機会は増えていくわけじゃないですか。何かが起こっていく。だから皮膚の炎症をできるだけ起こさないためには、しっかり外側から守る。強い日焼けや紫外線などの外側からのストレスをなるべくブロックするように心掛けるべきだ。例えば、洗顔する時にこすらないようにすること、外的な刺激を加えないことも大切です。洗顔して皮脂を落としたらその後をきちんと保護する。そんなことをしっかり守って欲しいですね。入浴の時硬いタオルに石鹸つけてごしごし擦るのは気持ちよくても問題ですね。それらまた、当然ながら、体の内側からの炎症を発症させる機序をも、違う形でブロックすることも一考の価値があります。

Q:今のお話の紫外線の影響ですが、肌の老化にどうつながるのですか?

吉村先生:よく日焼けがいいとされていますが、昔みたいにビタミンD不足みたいなこともありません。最近まで、プールサイドや日焼けサロンで、皮膚をブロンドにして健康的なイメージを出すのを、喜んでいましたね。どうもそれはインプレッションの問題ですね。ことに白人は焼きたがります。あくまでそれはこんがりして健康的な焼き色が欲しくてやっているだけで、本当はとくに白人の場合は浴びれば浴びるほどあまり良くない。肌の炎症を起こしてしまう訳です。そこで最近は、むしろ紫外線の悪影響のほうが強調されるようになってきましたね。日本人も、夏に顔も手も足も隠して、まるで変装しているようにまでやる人がおりますが、そこまで必要はないと思っております。

Q:日本人は、そこまで紫外線は恐れなくてもいいのですか?

吉村先生:問題は炎症の起こり方だと思うんです。炎症には色々原因があり、バリアがなくなり乾燥するとか、何か機械的な刺激を加えるとか、またその紫外線などで、炎症が起こるんですけど、東洋人の場合は、紫外線問題はちょっと誇張されてると思います。メラニンの少ない白人にとって紫外線は大敵で、白人は有色人種の東洋人と異なり、皮膚がんの発生率がものすごく高いのです。東洋人は細胞の核がメラニンの傘で紫外線から守られているので、割と平気なんですよ。もちろん、紫外線がいいわけじゃないですけど、そこまで脅かすほどではない。

Q:色の白い女性でも、日本人ならあまり紫外線を気にしなくていいのでしょうか?

吉村先生:日本人の中でも色黒から色白までいろいろな方がいます。色白の人は炎症を起こしてもシミになりにくい。ただ小じわが増えるだけなんです。白人と同じです。人の肌の色はタイプ1からタイプ6まで分けられていて、日本人にはその中の3段階(タイプ2からタイプ4)までが存在します。色の白い方ほど白人に近く、紫外線の影響を受けやすい肌質です。しかし、もちろんどなたでも最低限の紫外線ケアは大事なことです。

Q:やはり肌の老化の大きな原因は、その慢性炎症と云うことでしょうか?

吉村先生:僕は日常的な炎症の影響が重要だと思いますね。炎症は色々な臓器に対して悪いし、注意が必要だと思います。慢性炎症やメタボリックシンドロームしかり、皮膚にしても然りなのです。例えばアトピー性皮膚炎も慢性炎症です。その為、抗酸化剤が不老化にいいとされていますね

Q:メタボリックシンドロームなどでは、食事だとカロリーとか栄養のバランスとか明確な指標がありますけど、皮膚はどうなのでしょう?

吉村先生:皮膚だとその炎症になかなか気付かないことがあります。パッチテストでも出ないですから、皮膚科にいっても解りにくいです。

―― スキンケアの手順 ――

Q:それではお話を始めに戻して、顔を石鹸や洗顔クリームなどで洗って、保護膜の皮脂を落とした後の、スキンケアの秘伝は何でしょうか?

吉村先生:まず皮膚の潤いのために、水分をしっかり与えることです。それで、化粧水から始める訳です。乾いた土に水をやるのと同じで、充分に皮膚に水分を与えて潤いをつけることです。そして次には、植物への肥料と同じ様に栄養を与える。色々な成分を含んだ美溶液を付けることになりますね。それは同時に、水が蒸発しないように、水を浸したスポンジを乗せる役割もしている、大事なステップですね。ところがそのままではスポンジの水分もすべて蒸発してしまいます。そのため最後に、水が蒸発するのを守る為に、水を通さないクリームやオイルを塗る必要があります。サランサップで被うような役割をする訳で、例えば絆創膏をはがすと、皮膚がふやけた状態になっているように、オイルやクリームでカバーし、湿気を守ると、みずみずしさを保つことになるのです。しかもそれが美容液の皮膚への浸透も良くしますし、乾燥も予防することになる訳です。

Q:最後に、肌の老化防止には、具体的には日常どのような対応が必要なのでしょうか? 

吉村先生:普段のスキンケアでは、目安としては乾燥、日焼けと炎症(赤くなる)をさけるような工夫が第一です。特におこたりがちなのは、石鹸で洗った後の保湿ケアや、摩擦(洗顔、メーキャップ、マッサージなど)に気をつけることですね。使用する化粧品類として特にあげれば、サンスクリーンと抗酸化ローション(ビタミンCなどのローションで酸性でないもの)を使っていく。日常生活上、日なた(日焼け)は避けること。ときどき肌が赤くなることがあれば、原因を突き止めて修正する。ご自分で毎日良かれと思って励行している行為の中に落とし穴があることもありますので、とくに注意してください。

いろいろ興味あるお話、有難うございました。

吉村浩太郎先生
●略歴
1985年 東京大学医学部医学科卒業
同年   東京大学医学部形成外科学教室入局
1990年 東京大学形成外科助手、日本形成外科学会専門医
1994年 医学博士(東京大学)
1994-95年 米国ミシガン大学形成外科留学
1998年より  東京大学医学部形成外科講師、現在に至る
2005年より杏林大学形成外科非常勤講師
2009年より米カリフォルニア大学客員教授
主な所属学会
日本形成外科学会評議員、日本再生医療学会評議員、日本抗加齢医学会評議員、日本Men’s Health医学会評議員、光老化研究会世話人
●吉村先生HP “美容医学への扉”
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