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アンチエイジング対談【永遠に美しく…】前編

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第2回アンチエイジングシネマ対談―前編

1992年に日本公開になった「永遠に美しく… Death Becomes Her」。そんなに前の映画だったのかと、正直驚いた。改めて見返しても面白い作品。「バック・トュ・ザ・フューチャー」「フォレストガンプ」を撮ったロバート・ゼメキス監督が、当時の最先端のビジュアル・エフェクトを駆使し、アカデミー賞視覚効果も獲得したその映像は驚きの連続。そして、扱うテーマは「不老不死」。ストーリーは落ち目の女優マデリーン(メリル・ストリープ)と、学生時代からのライバル、ヘレン・シャープ(ゴールデン・ホーン)が美容整形外科医のアーネスト・メンヴィル(ブルース・ウィルス)を奪いあう。女のプライドと憎悪、嫉妬、など全て注ぎこみ、美しさを追求していく…。今でいうところのアラフィー女の壮絶な戦いと永遠の美を追い求める必死さを描いたブラック・コメディ。今回はこの1本を題材に美容外科医の塩谷信幸先生と「アンチエイジング」の視点から対談する。

― 不老不死は恐ろしい? ―

塩谷先生(以下S):「このビジュアルは、以前から講演のイントロダクションで愛用していました。「不老不死」がいかに怖いかとインパクトを出すためにね。この映画は若返りというより「不老不死」がいかに恐ろしく非現実的かというパロディと単純にとらえればいいのかな?本質的には、二人の女を相手にしなきゃいけないというのは恐ろしい」

記者(以下K):

S:「肝に銘じて」

K:「しかも美容外科医ですから」

S:「余計なことは考えないようにしているという結論に今至りました!
こっちは、ひとりでも持て余してるのに。ハハハハ」

:「アンチエイジング的に言うと、たくさんの異性と話をするとホルモン量が増えると聞きましたけど?」

S:「帝京大学病院の堀江先生の本「ホルモン力が人生を変える」著/堀江重郎 出版社/小学館 にはそういうことが書いてありましたね。ホルモン補充なんていって、サプリを飲んで、そのために副作用を起こすより、自然に自分で製造したほうが、楽しいし効率もいい。この映画で不思議だったのは、どうしてあの男がそんなにもてるのかと?有名な俳優ですか?」

K:「ブルース・ウィルスといって、ダイハードで有名になりマッチョな役が多かった。この映画のような役は珍しいですね」

S:「草食系男子みたいなね」

K:「そうですね。この映画だと、この男性は女同士のプライド戦の媒介役にすぎない。でも、彼は不老不死の媚薬を飲まなかった。「自分だけが生き残っても、周りの友達もみんな死んでいくことを考えたら耐えられない」というセリフは、不老不死を否定する明確なメッセージだと感じました」

― 若返りの罠 ―

S:「媚薬は、英語のセリフでは「ポーション」と言ってますよね」

K:「塩谷先生は何が入っていると思いますか?」

S:「非常に知りたいところ。映画を見ると、今のいろんなアンチエイジングの商品は、まさにポーション的な売り方をしていると感じます。「これこそ新しいポーションだ」っていう手法。それもだんだん飽きられてきちゃってる。これは何年の映画ですか?」

:「1992年です」

S:「アンチエイジングがはじまったのは1992年だから、ちょうどアンチエイジングブームになった時にパロディで皮肉るという意味もあったかもしれない。その頃、アメリカの抗加齢医学会ではサプリメントが先行し、それを売るためにセールスマンの医者を集めて、展示会や即売会をやって、それにくっつけた研究会みたいなものもやって。それをはじめたゴールドマンとその学会に対しての批判がのっているのがこの「HEALTHY AGING」という本。要するに、このような金の亡者がいるので、学会に僕はでないと」

K:「この方はお医者さんですか?」

S:「彼は有名な医者。統合医療、いわゆるホリスティックメディスン、ハーバードの内科医。アリゾナでやってる。珍しくこういう本でゴールドマンを名指しで非難している」

K:「ゴールドマンという人は?」

S:「会長。A4M(American Academy of Anti-Aging Medicine・アメリカ抗加齢学会)というアメリカの団体の。日本に何度も稼ぎに来てる。日本で興行して、A4Mも持ち込んでスポンサーもつけて。でも誰も医者が出ないもんだから、スポンサーはだまされたっていう感じで、2.3年は続いたけど続かなくなった。アメリカだけじゃなく、いろんな国に出向いちゃ儲けていた。サーカスの興行と同じ。最後には、ゴールドマンは俺の名前だって開き直った!」

K:「金の男って?」

S:「まあ、それは冗談かもしれないけど、えげつない奴だった。でも日本にもえげつない医者がいるから、それがみんなひっかかっちゃって。後でみんなゴールドマンに吸い取られて」

K:「アンチエイジングがどんなにいかがわしくても、人は付いていっちゃう」

S:「付いていくっていうことは、不老不死のポーションを夢見てるということです」

― アンチエイジング再考 ―

K:「最近思うのですが、アンチエイジングを考えるようになり、ドクターといった専門知識の深い人々が懸命にアンチエイジングに取り組んでいる傍ら、何も考えていない人のほうがピンピンと元気にしている。両極端なイメージが強くなったのですが…」

S:「だから結局、何がアンチエイジングかっていうことや、何がアンチエイジングにプラスかっていうことが何もないわけですよね」

K:「確証がない?」

S:「例えば、横山大観が100歳ぐらいまで生きたけど、彼は米のエキスだけ飲んでいた」

K:「米のエキス?」

S:「日本酒です(笑)。人が100歳まで生きた場合に、その人のライフスタイルゆえになのか、それにもかかわらずなのか、わかんないわけですよ。ただ、総じて言えることは、最近言われているカロリス。カロリーリストリクションは実験的には長生きしているし、日野原先生にしても、確かにそうではあるけれど…。日野原さんはステーキも食べています。それに家の親父だって玄米菜食といってたけど、ほんとは肉と甘いもの大好きだったけど実際に105歳まで生きた。僕はいつも言うけど、それで何の価値があるのかって…。親父も最後は認知症になって施設に入って、昼は肉か魚かって聞かれるといつも肉って答えていた。ちょうど落語で蕎麦通の男が「タレをあんまりつけない」と言っていた、死ぬ間際に「もっとつけたかった」という話がある。だから玄米菜食者の晩年はそんなようなものです」

K:「アンチエイジング的な治療と延命治療って、酷似しているが決定的な違いがある」

S:「ええ、それが本人の意思なのか、それに反しているかによります。話は飛ぶけど「不老不死」っていうのは、本当に考えていないから、不可能だと思っているから簡単に言える。ほんとうに可能だと思っていたら、そんなことは言えないわけですよ。オ―ブリ―・デグレイというケンブリッジの教授で素っ頓狂なコンピュータ学者が不老不死の方法をみつけたといってる本もある。「老化を止める7つの科学」。コンピュータの発想で、コンピュータからバグを抜いて完全なものにするように、人間の体から「老化」というバグを抜いていきゃいいと」

K:「老化はバグでしょうか。先生はどう思われたんですか?」

S:「読むに値しないと。いや、話は上手いです。学会でも、サイエンスフィクションじゃないけれど、話を聞いているといつのまにかリアルに思えてきちゃうんだけど」

― 美容整形とモーティシャン ―

K:「映画の話に戻ります。形成外科医が途中から死体の補修の仕事に変わりますが」

S:「それもわかんない。成功した美容形成医が、モーティシャンに成り下がんなきゃいけないのかって。尚且つ、こんな豪華な生活を続けてるのが。でもフィクションだからこだわっても意味がないけど。だけど美容外科医だけだと意味がないから、モーティシャン??よーく考えてみると形成外科医がやってることとモーティシャンのやってることは同じなのかというパロディでしょうか」

K:「その辺を伺いたいです。モーティシャンと形成外科医とつながるところはあるんですか?」

S:「ないです。形成外科医はないと思っているけれど、監督は僕の目から見れば同じだという意味が入ってるのかもしれない。そうじゃなきゃ、あそこでわざわざモーティシャンを出す必要ないですね」

K:「この映画でいうと、女優は形成外科医と結婚する得なんですか?そういうパターンは多いのですか?」

S:「いや、形成外科医は結構下取りに出すことが多いですけどね。奥さんを。患者をまた奥さんにしちゃうことはあるけれど、奥さんのためにタダで整形手術する馬鹿な医者はいないと思う」

K:「塩谷先生は女優さんから、こうしたいああしたいと相談を受けたことがあるのですか?」

S:「ないわけじゃないけど。僕はテレビもみないし、新聞もとってないので、女優だっていわれなきゃわかんない。手術してる時に若い医者がたくさん集まっているから「お前ら何してんだって?」聞いたら「女優さんです」ってことはあった。女優さんといったあの業界の人はとてもゲンを担ぐ。だから面倒臭いんです。手術の日も、いろんな所に相談に行って、この日にあっちの方向に引っ越して、そこから病院に来るとか。以前、患者の一人に名前が出せないぐらい大女優がいて、手術をするところになんか変なものが貼ってあった。それは剥がさなきゃ手術はできないって言ってたら、「いやこれはお守りだから剥がせない」と、押し問答したことがあった。でも、この映画の「人生は酷いわね」っていうメリルストリープのセリフが一番言わせたかったことでしょうかね」

K:「うーん。アンチエイジングを勉強するうちに「年をとることが悪いことなの?」って腹が立つことがある」

S:「だからここで「自然の理論よ」という言葉が出てくる。面白いというか適切なセリフがでてくるなと思った」

― アンチエイジングと長寿 ―

K:「塩谷先生はこのポーションがあったら飲まれます?」

S:「飲まない!本音でいうと僕は早く逝きたい。早くっていうかいつでも、まったく未練はない。前にも書いたけど地獄はみたくない。どんな社会になっていくかわんないし、人間同士の裏切りあいの世界は二度と見たくない」

K:「特に今は、長く生きても楽しくないというイメージがある」

S:「それはありますね」

K:「でもそれとは別にアンチエイジングという媚薬を誰もが求めている矛盾?長生きするだけじゃなく、ピンピンコロリのためにあるのでしょうか?」

S:「アンチエイジングは言葉としてはすごいブームだけど、アンチエイジング自体がブームなのかどうか。逆もありますよね。アンチエイジングも人によっていろんな取り方がある。男性、女性、年齢、売る方の側とか。売る方にとっては何でもいいわけですよ、商売になれば。受ける方の側としては、女性はさっきもいったように、年をとるのは酷だというのが本音とすれば、それがアンチエイジングになりますよね」

K:「子供の頃、手塚治の「火の鳥」を読んだ。その中で、不老不死の話があった。不老不死を望み手に入れた男が、体が消滅し魂だけで生き残っていく。地球も滅び、宇宙空間でたったひとり。会話する相手もいなくなって、ずーっと永久に存在し続ける…。不老不死は幸せじゃないと恐怖を感じた」

S:「ガリバーの話がまさにそうですよね。ガリバーというと、“小人の国”とか“大男の国”とか、子供のおとぎ話のように取られていますが、実は、ガリバーの著者のスイフトは稀代の人間嫌いで、あの旅行記も実は痛烈な社会風刺の物語です。「飛ぶ島」の話の中に、「不老不死」の話があって、その国、ラグラダには時折、不死人間が生まれる。額に赤い斑点をつけて生まれるのですぐわかるそう。するとその家族はその子の不幸な将来を思い、悲嘆にくれるという。不死身であるのは素晴らしいはずなのになぜだろう?」

K:「どうしてですか?」

S:「それは不老ではないから。ラグラダ人に不死人間のコロニーに案内されたガリバーがそこで見たものは、「永遠の若さ、永遠の健康、永遠の元気」と言うものが前提にないまま、永遠の寿命だけを与えられた人々。八十歳を過ぎたボケ老人の悲惨な生態を、延々と書きつづっている。ほんとうに不老で不死ならばいいのかもしれない。問題は老で不死っていうのが一番悲惨なんです」

K:「うー、でも、たとえ見た目が老いたとしても中身が老いてなければ問題ないのでは?」

S:「それは、皺伸ばしの手術を受ける患者のひとつの動機だと言われたのは「気持は若いけど顔が裏切ってるから、中身に合わせたという」表現を使う」

K:「でも限りがあるからこそ人生。というか、限りがないと人生はどうなるんでしょう。
寿命が200歳という時代が来たらどうなるのでしょう?」

S:「その場合どこまで不老であるかってことです。だから健康寿命が延びるのはいいと。ただ、ほんとうの意味で老化が自然現象とだとすれば、健康といっても機能は衰えていくわけです。それが長引いて、長期間続くのはやっぱり。だらだらと要介護の期間が延びるのでは困る。最近の報告だと、ぴんぴんで行った方がコロリといける」

K:「それは何か理由があるのですか?」

S:「理由はないですけどね。ただ車の場合でもそう。全部のパーツにだんだん寿命が来て、一斉にバッとだめになってくれるのがいいかもしれない。アンバランスに動かすよりは、バランスよく動かしていくほうがいいですよね。今丁度研究中ですが、今まで老衰といっていたことが、どこまで隠された領域かはわからない。本当の意味で老衰っていうのがあるのかどうか。最後はやっぱりなんかの病気なんだけど」

K:「塩谷先生は、老化は自然現象だと思ってらっしゃいますか?それとも…」

S:「自然現象」

K:「で、自然はやっぱり残酷なものである?」

S:「残酷っていうのも、立場によるし、老化の種類にもよります」

K:「そうですね。でも、年をとっても楽しいことはあるし、見た目が老いていってもそれは普通のことというか」

S:「だんだんこの年になってわかってきたけど、自分自身が自分の思うようにならなくなる恐れはありますけど。車椅子になったり、脳梗塞で喋れなくなるということで、つまり今以上に元気になるということは、まずありえない。だから変化があるとすれば衰えるのみ。そうすると衰える時の不自由さというのを、リアルに感じます。でも家の親父なんか100歳になっても2時間ぐらい立ったまま講演して、全国を飛び回り、ゴルフ場18コースちゃんとまわってね、また自分の年齢が100歳になった時にスコアも100でまわるとか考えていたこと事態がちょっと異常なくらい」

K:「なんか薬でも飲んでたんですか?」

S:「いや、飲んでない。最後が玄米と松の葉っぱしか食べてなかった」

K:「なんで松の葉っぱなんですか?」

S:「松の葉っぱに栄養素が全部あるって。玄米もだいたい揃っているし。葉緑素かなんか知らないけど、最近松の葉っぱがまた見直されている。松の葉っぱのサプリメントが発売されているし」

K:「確かに、自分の思うようにならない、機能的な不自由さはあると思う。同時に見た目も自分の思い通りじゃない不自由さがあるから、美容整形は必要なんですか?」

S:「ですね。見た目が重要なのが女性のプライド。男の場合にはもっと仕事とかね、見た目にそれ程こだわらない。アメリカなんかだと転職しながら出世していくから、転職の時に若く見えたほうが得だからということはあります。だけど、女性の場合には、建前はどうであろうと「見た目」が自分の思うようにならないのが許せないという志向は強いと思う」

K:「私も不老不死がヤダとかいいつつ、確かに若く見えた方が嬉しい。建前と本音はあります」

⇒まだまだ白熱する、後編を読につづく 

(C) 2008 Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment All Rights Reserved

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【作品詳細】
発売元:ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
価格:1,500円(税込)
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