アンチエイジング対談【ベンジャミン・バトン】前編
第1回アンチエイジングシネマ対談―前編
80歳で生まれ、次第に若返っていく数奇な運命を生きた男のストーリーを描いた「ベンジャミン・バトン」。主演は、ハリウッドいちの美形俳優とも称されるブラッット・ピット。最先端のCG技術による精巧な映像ワークも話題になった作品。美容外科医でありアンチエイジングネットワーク理事長でもある塩谷信幸先生に「アンチエイジング」という視点をからめ、感想をお伺いしたいとお願いした。「では、これを読んでいただいた上で」と手渡された一冊の本。
「ちいさなちいさな王様」(著者:アクセル・ハッケ)。主人公のところに、突然王様があらわれ、二人の不思議な交流がはじまる。王様の世界では、生まれた時には体が大きく、様々な知識を持ちすぐに王位の仕事をこなせるというが、年をとるにつれて、体が小さくなり、いろいろな事を忘れて…。
どうやら、ベンジャミン・バトンとも少なからず共通項がありそうな話だ。第1回アンチエイジングシネマ対談は、映画「ベンジャミン・バトン」+書籍「ちいさなちいさな王様」を題材に行われた。
― 若さの意味とは ―
記者(以下K)「ベンジャミン・バトンという80歳で生まれ若返っていく数奇な男の運命を描いた作品でしたが、塩谷先生はどうお感じになりましたか?」
塩谷先生(以下S)「非常に不思議な設定だけれども、見ているうちに当り前に思えてきたことが、また不思議だと思った。こういう筋だてのお陰で、エイジングが逆の意味から浮き彫りになっているなと感じました。最初のシーンで時計が逆まわりになるところがあったけど、あの辺と全体の位置づけがイマイチかな~と。あなたはどう感じましたか?」
K「時計が逆に回るのが、エイジングを強く象徴していた。結局、時計は前にも後ろにも動くけど、時間の流れは止められない…」
S「なるほど。映画の中で、フィルムを逆回しにするシーンがあったけど、普通に回していて、なおかつ時間がひとりだけ中身が逆にいっちゃうところはわかりやすかった。ただ、改めてアンチエイジングをからめてどうこって言われると、なんだか難しくなっちゃいますね(苦笑)。だた感想を話すと、面白いストーリーでうまく出来た映画だということになるので、困っちゃうんですよね」
K「はい…。これは逆回しの話ですけど、塩谷先生が講演でおっしゃっているバチカンのキリストとマリア像のように、美しい時は20代の一瞬に象徴されるのかな…とか。若さや美しさに惹かれてしまう、人間の切ない性を感じました」
S「この映画では両方向に向いている二人が、ある一瞬だけバランスがとれる時がありますよね。普通の場合でも、女性側だと配偶者に対して一生懸命若返ろうとする。あくまで相手を意識して喜ばせたいと、自然にそうなる。でもアメリカでは男が、しかも美容外科医が自分で皺伸ばしの手術をする。それで、たまたまかもしれないけど、若い奥さんに代わってると、なんかジェラシーを感じたりして(笑)。けっこういるんですよ、アメリカの形成外科医で自分で手術する人」
K「そうなんですか!? カップルで片方だけが整形で若返えると、当初は自分のパートナーのためだったのに、自分の若さとバランスのとれる相手を探すようになるのでしょうか?」
S「うーーん、かもしれませんね。ただそれは、どっちが原因で結果かはわからないけど」
K「女性は相手の男性のために、若くありたい、キレイでいたいという気持ちがあるけれど、この映画のように自分の好きになった男性が自分より若返ってくると、女性としては複雑…」
S「うーーーん」
K「あと、思ったのは、男性は職場での立場を考えると、必ずしも若く見られることが有利ではない場合もありますよね。この映画でも若くなると社会的には子供扱いになってしまうイメージがあったのですが」
S「ええ。医者の場合は、チョビ髭を蓄える事などあります。男はある程度、経験豊かに見られるために、ポジションによって多少年配にみられるのがいいとすることもあります」
― 男性も若くみられたい? ―
K「塩谷先生の美容外科医としてのご経験の中で、男性の若がえり以外の、オーダーはあったのですか」
S「そうですね。アメリカは競争社会ですから、転職の場合にはやはり若く見られたほうが有利。日本のような永久就職ではないので、転職時に皺伸ばしという手術は男性でも多い。これはあくまでも印象ですが、ゲイやマザコンの男性の患者も多かったような…」
K「へーっ。どうしてでしょう? マザコンの場合、自分がいつまでも可愛がられる存在でいたいという願望が強いのですか?」
S「かもしれないですね。無意識にしても」
K「美容整形の話でいうと、日本よりアメリカが男性の施術率は高いのですか?」
S「昔から多かった。本題を離れちゃうけど、ジョンス・ポプキンス大学がとった統計があって、男と女、皺伸ばしと鼻の整形と4つのカテゴリーを比べた場合、一番危ないのは、男の鼻整形なんです」
K「危ないというのはリスクが高いのですか?」
S「いや、オカシイ。頭がオカシイというか、精神病的な…」
K「うーーむ」
S「でね、一番安心して手をつけていいのは、女性の皺伸ばし。ある程度の年齢であって、ちゃんとプラスマイナスを承知の上で、自分の虚栄心のためにやりますっていう割り切り方ができている。それが男性の場合だと、気にはなっていても今までの社会通念で、女性よりもバリアが高いわけです。このバリアを超えるということが性格異常を超えちゃってる人もあるということ。皺伸ばしはある程度の年齢の方が受けますが、鼻の手術は20歳前後から気にして行うので、マチュアじゃないのも問題」
K「なるほど…。映画ではイケメンといわれるブラットピットが演じていますが、アメリカ人は鼻の整形をする時、こういう鼻になりたいと理想を持ってくるのでしょうか?」
S「アメリカの場合はたいてい小さい鼻。それで低くて、顔で言うと少し顎がはっていて、いわゆるケネディみたいな、ああいうイメージ」
K「ケネディがいい男だと?」
S「そうです。士官学校の統計がらみだけど、あいいう顔が将来大将になる顔と言われているんです」
K「やはり国民性や時代もあると思いますが、いわゆる『いい顔』はあるのですか?」
S「そうですね。まあだいたい、鼻って言うのは大きいのは小さくしたい、小さいのは大きくしたいというか。いつかセミナーでじっくり話したいと考えていますが、容貌の持つメッセージ性については、鼻なら鼻だけで1、2時間は話せちゃいます」
― アンチエイジグの意味とは? ―
S「話は戻りますけど、高名な東大の看護ワークのスペシャリストの女医といろいろ話をした時に、彼女は『若返りたいけど別に20歳も若くなるつもりはない』と言う。『じゃあ、いったいどこを目標にしてるのか』と聞くと、『自然な範囲で5~10ぐらいでしょうか』と、曖昧。最後は『自分が一番輝いていた時期を取り戻したい』って。僕はね『あなたは今が一番輝いているよ』っていったんですよ」
K「素敵なお話です」
S「でね、そうすると皺っていうのはわかりやすい。皺が1本2本減ったという風に。鼻の形は、若返ったっていうのを客観的に表現するのは難しい。数値的に表現できない。だから輝いていると表現したとすると、内面的なものが入ってきちゃいます。で、映画で、気になったのは、逆って言っても、80で生まれた時に80の経験を持っていないんですよ」
K「そう!そこがこの本との違いですよね。社会性を身に付つけていく部分が少し弱いのが気になりました。この映画で思ったんですが、以前、塩谷先生がおっしゃっていた、どんなに元気な人でも死ぬ前の平均5年間は、レベルこそ違っても要介護であると。赤ちゃんも5歳位までは、いわば要介護の状態ですよね。赤ちゃんは可愛く面倒をみれるのに、どうして老人にはそうできないのですか?」
S「それは、赤ちゃんの場合は、だんだんプラスになっていくから。老人の場合は頂点を極めていたところから、下り坂になる惨めさがある。だから僕も親の介護で一番辛かったのは、親が目の前で次第に崩壊していくのをみたこと。ただ機能的に言えば、赤ん坊に返っていくという一面もあります。そういう意味では今言われたような疑問もでてくるのでしょう。ですが、現実問題としてやっぱり、年をとって、オムツが必要になったり介護が必要になったりするのは赤ちゃんと同様という面はあります」
K「要するに、先程の女医さんのお話ではないですが、若い時が一番輝いているわけではない!100歳で輝いている方もいらっしゃいますよね」
S「そういうとね、自分の気持ちは輝いて若いけれど、顔に裏切られているっていういい方をする人もいる。だから気持ちに顔を合わせたい。そういう表現を使う患者さんもいます」
K「それはなんとなくわかります!昔の洋服は着れるけど、顔だけ浮く感じ…」
S「そういう意味では、昔に戻りたいと」
K「若返るのではなく、アンチエイジングというのは、今一番輝いているためのものと考えるのがいいのでしょうか…」
S「そういう捉え方もある。アンチエイジングという言葉は非常に響きが悪いですよね。いろんな風に捉えられるし、アンチエイジングというのが必ずしも言ってる内容にマッチしていないということもありますから。今はその議論は置いて、要するに一番大事なことは、現代を充実させるっていう切り口だという人もいます」
K「この映画でも、人は死ぬのは必然ということですよね」
S「ですよね」
K「先生もよくおっしゃっていますが、アンチエイジングというのは不老不死ではないと。死があるからこそのアンチエイジングなのでしょうか」
S「ですね」
後編へ続く
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ベンジャミン・バトン 数奇な人生 (2枚組)
ブルーレイ \4,980(税込)
DVD \3,980(税込)
ワーナー・ホーム・ビデオ
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作品詳細
●ベンジャミン・バトン
●『ちいさなちいさな王様』
塩谷先生のブログ
●塩谷先生ブログ
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