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「アンチエイジングの専門家がナビゲート」(ガイド:熊本悦明

80年人生の折り返し点である更年期は、車の車検期に相当する体調変調期

 

§更年期障害とは何ぞや?
 更年期という概念はギリシャ語の「Krimakter(梯子の横木)」からきています。いうならば、人生の階段の横木、踊り場の意味を持っているのです。丁度日本の厄年の様な意味合いをもっていたのでしょう。その変わり目に何かしらか体調に変化が来ると経験的に理解されていた訳です。そして昔は、思春更年期や閉経更年期、老年更年期などという言葉もあったとされています。しかしそのうちのもっとも特徴的な“閉経更年期”がよく日常的に使われたことから、更年期といえばそれを指すようになってきたとされています。

 その更年期は、いわば生殖年代が次の年代へ変わる人生の踊り場ともいえる時期なのです。人生50年といわれた昔は、更年期に続く年代は、活動期を終えた後の余生であり、あまり長くない収めの人生に過ぎないと一般に理解されていたといえます。その為か、更年期という言葉には、やや消極的なネガティヴな意味合いが多分に含くまれており、その時に起きる体調変化を勘案して、翳りのある年代という印象が強かった訳です。

 しかし、最近の医学の進歩は目覚しく、寿命を急激に伸ばし、今や人生80年時代となり、20~50才の生殖年代に匹敵する、もう1つの新しい30年の生活が創られるという“長寿化時代”となってきているのです。
 となると更年期とは、むしろ長い“80年人生の折り返し点”の時期となって来ているのです。そして、次なる“第2の人生・豊かな熟年世代への入り口”としての意義を持つようになったので、それを積極的に乗り越えて次の発展につなぐべき年代であり、今や、過去の人達が理解していた人生コースの理解とは、その内容が大きく変わって来ているといえます。

 その様な人生コースが長くなるにつれ、ただ何となく加齢していくかに見えた男性も、よく観察していると、50歳代には、同じ年代女性の更年期症状に似た症状に苦しむものがかなりあり、月経生理のない男性といえども、スムースに人生折り返し点を経過しおえて、問題なく熟年期に移行しうるのではないことが認識されるようになって来た訳です。
 要するに、車の車検期に相当する体調変調期が人間男女両性にあることが判ってきました。車も最近車体の質が良くなり、車検時に買い替えないで、車検で機能を新たにして、更なる快適な運転を楽しめるようになったと同じように、人間も長く元気に動けるような健康維持が可能になる医学的ケアーが進歩してきたといえるのです。

 それは昔単純に余生とされた年代が、実りある熟年期とされるようになり、比較的元気に活動出来る人生の幅が大きく広がったことの結果として、丁度車の慎重な車検重視と同じ発想、ともいえましょう。そのお陰ともいえますが、今迄軽視されがちであった男の中年期の苦しみが問題視され、しっかり「生き物・男性人間」の車検的厳重チェックの重要性が、社会的認知されて来たということなのです。

 しかし実はかなり昔から、その様な中年期の男性の体調不全そのものの存在は、比較的長生きする男性間で、中年期に理解できない症状があることは、一部の医師には気付かれておりました。少なくとも、100年以上も前の1910年には、閉経などという生理現象がないので原因は明らかでないが、女子更年期症状そっくりの症状を訴える中年男性共が少なからずいることを、正式にドイツとイギリスの学会誌に綜説が出てはいたのです。
 しかし、全く原因不明で説明できないことから、一部の学者の関心を引くのみで、医学界全体としては殆ど関心がなく、無視され、全くブラック・ボックスに押し込まれたままになっていたのでした。

 しかし、遅れたとはいえ、徐々に睾丸の生理の学問が進み研究も進むにつれ、1940年代中頃にもなると、男性ホルモンの正確な測定はできないもの、全体としての男性ホルモン作用によるとされる身体の特徴が翳り始める頃に、丁度その症状が発症するし、また新たに開発され使用できるようになった男性ホルモン製剤を注射し男性ホルモンを補給すると、その症状に悩む症例がかなり元気さを回復するということが明らかになってきたのです。
 その報告が、第2次世界大戦の最中の1947年(昭和24年)に、有名な雑誌『リーダーズ・ダイジェスト』に紹介された時は、戦争で疲労していたアメリカ男性達への大変な福音として異常な注目を集め、その雑誌が飛ぶよう売れたと、今でも語り草になっています。

 その後、平和の世となり医学研究は進んでも、正確に血中男性ホルモンを測定することが、女性ホルモン測定の様に成功せず、男性更年期障害の解明が進まないので、女性更年期研究が進む女性医学に、残念ながらかなり遅れをとっていました。

 とはいえ、1970年代後半頃からは漸く男性ホルモンも測定可能になり始め、具体的に加齢による男性ホルモン低下が証明されるようになると、女性ホルモン低下で女性の更年期症状が起きるように、男性ホルモン低下により、男性も更年期症状が発症することが解明されるようになってきたのです。ここでやっと女性医療に男性側も追いついた訳です。
 でも、丁度その頃、先に紹介しましたように、私が日本で男性ホルモンを測りながら日本人での男性更年期のデータをまとめて、1979年に医学総会で発表したら、今は昔語りですが、保守性のかなり強い日本の医学界では、かなりな反論を浴びたことは前回紹介しました。

 ただそれで喜んでおられず、そのように男性ホルモンが一般診療でもかなり容易に測定出来る様になり、男性更年期障害の検討が著しく進んでくると、今度は男性ホルモン低下のみでは十分に説明できないという問題が出てきたのです。男性更年期障害は一筋縄で説明できないことが判って来たと同時に、女性更年期障害研究の方も、女性ホルモン低下だけでは説明できないことも明らかになり、更年期障害なるものは、男女とも性ホルモン低下は大きな役割をしているとはいえ、それだけでなく、生活上のストレスによる反応性うつ症状がその上に加味されていることが明らかになって来たのです

 人生の華・生殖年代を終えるころから、ストレスへの脳の抵抗力が弱くなり始め、若い年代ならすぐ処理回復出来てしまうストレスの影響が、年をとると次第に抵抗性が落ちてきて、ストレス反応をすぐ処理できなくなるのです。殊にそのストレスがかなり強かったり、頻回に繰り返し加わったりすると、そのストレスの影響が溜まってきて、反応性うつ状態になるという事が判って来ました。それが同じ時期に起こる男性ホルモン低下の影響に、重く圧し掛かってくるのです。

 その反応性うつ状態という精神神経症状は、男性ホルモン低下と関連なく進むこともあるのですが、また男性ホルモン低下そのものがその症状をより増強することも少なくないので、かなり複雑な発症機序が更年期障害の裏で動いていることが判ってきております。
 しかも男性更年期とは関係なく、精神科での“うつ”やその関連疾患と診断されている男性症例を調べると、かなり男性ホルモンの低下も認められることも、解って来ました。この様に、更年期障害症状は、男性ホルモン低下に加えて、その反応性うつ状態が混在した形で出現して来ますので、一口に男性更年期症状といっても個々人により、かなり内容がばらばらなので、それがまた、本人が自覚しにくいという事情になるのです。前回説明しました質問紙の回答を見るとそのバラツキの多さが判ります。仕事疲れかなどと、男性は我慢しがちになる訳です。

 女性の方の更年期障害も、やはり原因として女性ホルモン低下だけでなく、男性同様のストレスによる反応性うつ状態が加味されたパターンがかなり多く見られ、それに対する医学的対応もしないことが、次第に明らかになり、更年期障害の手強さを感じさせられています。

 以上少し長々と、男子更年期障害が医学的に認知され、原因分析までの過程を説明してきしたが、それだけ判りにくく難しい症状であることをお判かり頂ければと願っております。殊に秘かに人にはあまり打ち明けずられずに、一人悩める中年男性に、問題意識を持って戴き、早く医療相談に近づいて戴きたいと、願っております

 さてその治療ですが、やはり性ホルモン治療が基本ですが、男女ともその性ホルモン投与のみでなく、合併する反応性うつ症状としての精神神経症状への対策としての色々な漢方薬や種々の抗うつ剤の併用も、必要となってくることが屡有ります。詳しい治療問題の解説は、別に改めて詳しく説明するつもりですが、その併用判断が、治療成功のもとにもなると考えております。
 丁度、下図のように、電話が鳴らないのは、電話のオイル切れ(ホルモン低下)のみでなく、電話のコードが壁に挿してあるソケット接続部故障(ストレス性精神神経反応』であることもあり、両者のチェックを忘れないで欲しいということです。

>>>『男をもっと知って欲しい』バックナンバーはこちら

 

筆者の紹介

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熊本 悦明(くまもと よしあき)

日本Men’s Health 医学会理事長
日本臨床男性医学研究所所長
NPO法人アンチエイジングネットワーク副理事長

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