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「アンチエイジングの専門家がナビゲート」(ガイド:熊本悦明

女だけではなく、男にも生理がある

 

§男にも生理がある
 生まれた後、男女で何が違うのかというと、それは様々な違いがあり、簡単には言い尽くせるものではありません。しかし姿・形でなく、自意識・自己感覚としての、男女の性の意識としての一言で言える相違点といえば、やはり男女の生理の違いといえましよう。

 “女に生理があることは承知しているが、男の生理など聞いたことがないよ”という反発が、このネットワークの読者の中からかなり出てくるのでは……。そればかりでなく、医学の大家を任ずる多くの男性医師方々さえも、同様な発言が出てくるのではないでしょうか?
 しかし、女性の生理とされる月経でさえ、嘗ては表立って口に出せない認識であったものが、一般常識として堂々と社会的に議論される様になったのは、1950年代以後の所謂女性解放に伴う生理休暇の普及や1960年の経口避妊用ピルの開発などによる性に対する心理的抵抗の変化、性に対する認識の変革によるのもで、僅か半世紀前位からことではないでしょうか?

 一方、男性側でも早朝勃起なるものは昔から当然のこととして認識されてはいた訳で、ただその背後に、ここでいう“男の生理”としての、覚醒時勃起と異なる夜間睡眠時勃起/睡眠関連勃起が重要な存在あることが医学的に確認されたのは、丁度女性側のピル開発の頃(1965年)なのです。それから半世紀かかってようやく、早朝勃起の生理的意義がエロチックなものとは無関係であることが、社会的に正しく認知されるようになり始めた来たようです。この社会的認知の女性に較べての半世紀の遅れを、取り戻すべく、今や男性医学が頑張っている所なのです。

 まだ男の生理の認識を充分普及させる所まで進んでいませんが、是非とも、男も女と同じ生き物としての生理があることを、世の人が性教育の上で正しく認知できるようになれば、極めて有意義なことと信じております。
 それが出来るようになることは、社会的にも非常に重要なことで、今までの何かdirtyなまたeroticな物事としてしか見られていなかった“性に関する事項”への偏見から離脱が出来、男も人間・生き物として科学的に正しく認知し、理解・対応していける社会的な流れができつつあるといえます。現在の医学・看護学の教科書ですら、未だに、“男は、性的に興奮して勃起・射精する動物”の様な理解でしか書いる記載も、徐々に書き改められる筈です。

 “生死の医学・生きる為の医学”であった 20世紀の医学が、21世紀となり、“QOLの生きていく為の医学”へと進化しつつあります。社会的に“徐々にQOLの中心としての性の意義”を、正しく認知・自覚出来るようになりつつあることは、まさにその変革の証であるとも思っております。
 男としての生理としての早朝勃起の認知は、月経が女としての自認に結び付くように、男としてのとしての“自認や自己尊厳”にもつながるものなのです。

 その為には、先ず第1に理解しなければならないは、男性性器は胃腸など同系列の内臓臓器であり、それが体外に顔を出していることなのです。
 生理学での教科書には、睡眠時、夜の神経といわれる副交感神経機能が亢奮し、夜中、胃腸機能が亢奮し栄養吸収が促進されるという記載があり、その為に睡眠前にものを食べるとよく吸収され体重増加につながるので注意せよと、よく語られていますが、その胃腸系の一部である陰茎でも、同様に夜間に活性化する生理的現象をおきているのです。
 睡眠には図1、2に示すように、ノンレム睡眠期とレム睡眠期とがありますが、レム睡眠期に、睡眠により身体生理が完全に機能停止しないように、副交感神経中枢が興奮して、各種内臓機能を動かしており、眼球が動いたり、また寝返りしたり、夢も見ているのです。その睡眠中断続して起こる副交感神経興奮に連動して、内臓の外的表現である陰茎も、勃起現象を頻回に繰り返しているのです。

 

 そして、図3に示すように、男性としての当然な生理現象として、夜間睡眠時間中、合計するとかなりの時間、陰茎勃起が起きているですが、睡眠中なのでほとんどの男性は自分ではそれを気付かないでいる訳なのです。

 その夜間睡眠時勃起現象は、特に性的に興奮するわけでなくて、全て自然な男の脳の生物学的生理反応・副交感神経興奮の結果として発現するのです。そのレム睡眠中最後の睡眠関連勃起をしている時に、丁度朝目覚めると、それを本人が自認し得る、男なら経験している早朝勃起・朝立ちと、呼んでいるのです。
(注:陰茎勃起は副交感神経支配、射精は交感神経支配)

 その睡眠関連勃起は、この様夜間の副交感神経中枢活動と連動して、脳の性機能中枢よりの指示の下におきるので、そのレム睡眠時の勃起現象は基本的には性差がないため、女性性器でも陰核勃起や軽度の子宮収縮も起こしていて、生物の性の生理の基本ともいえる機能なのです。
 ただ通常女性生理とされているものは、もう少し脳・視床下部の性分化が進んで女性特有となる視床下部弓状核機能によヒト絨毛性ゴナドトロピン分泌周期中枢に関わる生理機序の結果である月経なのです。陰茎・陰核勃起の方が、それよりもっと基本的な生物学的な意義にある“性の生理”といえます。女子でも起こる、陰核の睡眠時勃起や子宮収縮は、解剖学的条件から本人が自覚し得ず、むしろ自覚し易く且つ女子に特徴的な月経が女性生理とされている訳です。男性の場合は、それより生理機能的には上位にあり、男として自覚し易い睡眠時関連勃起・早朝勃起が、基本的な“男性の生理”として認知されているのです。

 現在の教養文化の中で、洋服を着たロボットのように育てられて、忙しく社会生活している男性方は、“勃起”などは秘すべき事象であり、あえて言挙げすべきことではないと、思っていることでしょう。ここで急に“男のサイン“として“朝立ち“が重要であり、そんなに“男としての重要な生物学的表現”として尊重すべきであるなどと言われても、恐らく戸惑うかもしれません。しかし生き物として、どんな美女でも月経があるように、教養高い聖者でも、スマートなエリ-ト方でも、男ならそれが必ずあるべき生物学的生理現象なのです。“勃起”と言えば、エロッチクな性行為そのもののようにしか理解・誤認している人が殆どなのではないでしょうか? 
 この勃起現象は基本的・生物学的な男性の生理であることを示す重要な所見として、殆ど世に知られていないのですが、図3の中の写真に示す様に、胎生期の男性ホルモンシャワーに反応して、胎児男児においてすら、すでにこの勃起現象が認めらていますし、男の赤ちゃんのオシメ取り替え時に勃起しているのがは尿が溜まっているためではなく、やはりこの勃起なのです。またさらに新婚インポテンスやSexless男性でも、覚醒時勃起とは無関係の夜間睡眠時勃起/早朝勃起は存在しているのです。
 出生以後は、レム睡眠時に勃起するので、その勃起回数は、幼児期でも成長後も殆ど同じですが、ただそれが男性ホルモン依存性の為、思春期以後精巣よりの男性ホルモンが上昇するにつれて、毎回の勃起の勃起時間が延長してきます。(図4,5)

 その為、睡眠中の合計勃起時間は血中testosteroneとかなりな相関性を示しており、図6の如く、

加齢により変化していく血中testosterone値(図7)と相関するように、睡眠時間中における合計睡眠時勃起時間が変動しています。

 臨床的に興味深いのは、20才代での睡眠関連勃起時間合計は全睡眠時間の1/2にも上り、50歳代でさえも全睡眠時間の1/4は勃起している。ただそれを睡眠時中のエピソードである故に、男性自身は全くそれを自覚出来ないでいる。朝の目覚め時に、その夜中最後の勃起のを早朝勃起として、その早朝勃起認知度を、加齢により如何に変動を調査したのを図8に示しておきます。

 ここで特に改めて強調しておきたいことは、一般の人々の認識として、勃起というと、残念ながら、あたかもエロチックなニュアンスのある恥ずかしい生理反応、所謂dirty episodeと言う、非常に不自然な偏見の下で、受け取られていいますが、是非とも、これが“極めて自然な男性の生理現象”であることを、少なくとも医学者たる者、正しく理解しておいて戴きたいことです。殊に思春期の少年に対する性教育の現場で、“男の男たる生理”であり、月経に対応する決して恥ずかしくない身体の生理反応であることを、しっかり教えるべきであると願っております。

 この早朝勃起は、上述のような生物学的に極めて基本的な生理現象であることを証明するもう1つの所見があります。それは約1万例近くの成人男性で我々の行った質問紙による性問題疫学調査でを行った成績で、因子分析による相互関係図(correogram)を作ってみると、図9の如く性的亢奮時の覚醒時とレム睡眠時の勃起現象とは、それぞれ独立した異なる因子に分離されることが明確に証明されていることです。

 これは”男性性器-陰茎-勃起-エロチックな問題”という週刊誌な通俗的発想から、直ちに離脱すべき理由となる資料といえます。所謂女性生理とされる月経問題と同質の医学的論議であるとの理解が必要であり、男性の極めて重要なQ.O.L.に関する医学的問題であるという認識を持って頂きたいものです。

 その早朝勃起自覚率は先に示した図8に示した如く、かなり血中男性ホルモン(テストステロン)依存性が高い生理現象であり、テストステロンの加齢による低下に連動して、早朝勃起自覚率も下降してきます。その相関性に関し、詳細なしっかりした統計的分析知見はないが、大雑把な纏めをすると、フリーテストステロンが12pg/ml以上あれば少なくとも1日おきに気付いており、12~8pg/mlは時々気付き、8pg/ml以下になるとあまり気付かなく、6pg/ml以下では全く気付かなくなっております。
 
 ただ問題は、“男の生理としての早朝勃起”に対する男性自身の認識度が必ずしも高くないことです。青・成年年代の男性は、それを何気なく自認していたとしても、あまりそれを意識せずに、日常のことと思いつつ過ごしている訳です。それがいつの間にか自覚しなくなっても、加齢による単純な体調変化と理解して、さして関心を持たずにいるのが普通の男性、殊に仕事に忙しい中高年男性達です。月経の様に、はっきり確認できる女性の生理と異なり、男の生理・早朝勃起については、常識的な基準や知識もないまま、その自らの性的体調変化の問題点を気にも止めず、何と無くそのまま受け止めているといるのではないでしょうか。
 これは、男性は、女性の様に幼少より生き物としての自覚をさせる教育を受けていないことにもよります。幼少時より生き物感覚が養われていない為に、男性として極めて基本的問題であるにも拘らず、男性性の加齢による推移について、殊に早朝勃起問題に関心が示されていないのです。一般の男性自身達が自らの問題に無関心過ぎるといって良いでしょう。

 しかし、本当に男性たるもの自らの早朝勃起などに、全く関心が無いかの様に見えますが、じつは全くさにあらず、なのです。心の深層には、其れなりに男としての自覚は持っているのです。それについては極めて興味深い事実があります。更年期障害などで消失していた早朝勃起が、治療により回復して来た場合の患者の反応は注目すべきものがあります。 
 男性ホルモン(アンドロゲン)投与、SSRI(抗うつ剤)投与などで、その治療の詳細は紙面の都合で省略せざるを得ないのですが、早朝勃起再出現し、パートナーとの具体的な性的関係などとは全く無関係で、所謂EDの概念とは全く異なる意味での、真の意味での男としての再生したことが、男性自身で自覚できる“男性生理の復活”となっているのです。 この早朝勃起の再自認は、まさに自分も”まだ活力ある生き物・男であることの自覚”につながり、そして自信(self confidence) 更に自己尊厳(self esteem)獲得にまで確実に結びついていくようです。

 更年期障害が治療である程度体調や気分など快方に向かっていても、もう一つ元気さの復活を感じさせない例が、早朝勃起回復維持を目的に長時間有効力のあるPDE5阻害薬(シアリス)投与の積極的な併用治療を実施し,この男の生理を再生させると、パートナーと関係などを超越した“生活上の自信回復と生活活性化”を異口同音に自ら語るようになります。あまり日常的会話的には語られる内容ではないのですが、診療カウウンセリングの合間に、やや大袈裟ながら、まさに“俺も男だ”との再確認的発言が出来てきているのです。患者側から、自然に男性としての自信回復、精神的再活性の言葉が出てくるのには、医師としてはむしろ驚く程であり、臨床的に大変意義あるものと感じています。これは自ら体験してみないと実感が湧かない様ですがーーー。
 これは、新しい心理学とされる、マズロー(図10)やロジャースなどの唱える、まさに“内燃的な、非指導的自己実現達成”と言われるものではないかと感じております。やはり“男の生理”の意義は、男が陰り始める中高年男性に、密やかな精神的支え、自己尊厳、を与えるものと言えるのではないでしょうか? 
 マズローの有名な自己実現ピラミッドの図の中のある、4段目の“認知・承認の欲求”が満たされ、安定したしっかりした根拠を持つ自己に対する評価、自己尊厳・自尊心を、内燃的に無意識のうちに心の中に生まれてくることが、中高年男性にとって、社会的生活を進める上で極めて重要なのではないでしょうか? 

 勿論、その為には色々な複合した、図中の下段の因子の充足もそれなりに求められるのでしょうが、やはり秘やかな生理的自信、生き物としての男の自認が一番の基礎的因子の様に感ぜられます。その様な意味で、男の生理を中高年男性が認知することを勧めたいと思っております。

 その支えの上に、自分の潜在的に持っているものを実現しようとする、自己実現の願望、好奇心に支えられた創造的生活活動への医薬がわきまたそれを実行する意欲も湧いてくるのではないかとされております。人生における自己実現は言うは易いとはいえ、一回の人生をそれなりに送る真理(?)といえませんか?

 

>>>『男をもっと知って欲しい』バックナンバーはこちら

 

筆者の紹介

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熊本 悦明(くまもと よしあき)

日本Men’s Health 医学会理事長
日本臨床男性医学研究所所長
NPO法人アンチエイジングネットワーク副理事長

著書
「男性医学の父」が教える 最強の体調管理――テストステロンがすべてを解決する!
さあ立ちあがれ男たちよ! 老後を捨てて、未来を生きる
熟年期障害 男が更年期の後に襲われる問題 (祥伝社新書)

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