アンチエイジングニュース

「アンチエイジングの専門家がナビゲート」(ガイド:熊本悦明

アメリカのDabbs教授夫妻と、イギリスのManning教授らによる男性的行動活性についての研究を紹介する

 

§アメリカ学派とイギリス学派の男性化機序の視点の違い
 ここで最近出てきている是非注目すべき研究を紹介しましょう。それは、臨床男性医学的な立場から見ると、前述した胎生期と思春期後の2つの男性化機序の発動の流れに関しての、極めて注目すべき優れた系統的な研究報告です。

 1つは1980年代から始まった、アメリカ、ジョージア州立大学の臨床心理学者のJ. M. Dabbs教授夫妻による広域な男女グループの唾液中男性ホルモンの疫学的分析と行動活性との関連性の研究です。男女とも、男性ホルモンが多い人は生活活性度が高いという報告でした。
 これは何となくわかりやすい成績といえますが、もう1つの1990年代から始まった、イギリス、リバプール大学人口生物学者のJ.T. Manning教授らによる、胎生期の男性ホルモン・シャワーが強いほど、手の人差し指(2D)/薬指比(4D)が小さくなり、それにつれて男性的行動活性が強いという研究は、極めて斬新な報告といえます。この指の話は後でもう少し詳しく説明しますが、一応参考の為、図Aの様な、男性ホルモン多い男性と男性ホルモンの少ない女性とで、手の人指し指の長さに違いがあるのを見ておいて下さい。

 Dabbs教授は生後の男性ホルモンの作用を、Manning教授は生前の男性ホルモンの作用を、人間の臨床的性差医学の中で分析検討し始めているのです
 男を創る男性ホルモンには2つの性分化シャワーがあることは、すでに簡単にまとめて、前回でも示した下図で説明しました。

 そしてこの2つの学説を、臨床的に綺麗に証明した、象徴的な論文が、ケンブリッジ大学生化学Coates教授らにより、昨年3月と本年2月に、米国科学アカデミー学会誌に発表され、国際的に注目を集めております。ロンドンの株取引所の証券マンたちの利益率という面白く解り易い指標を使って、その2つの男性ホルモン・シャワーの臨床的意義の分析した興味ある研究です。
 どちらも男性ホルモンにより、生前、生後に創り上げられる積極的なアドベンチャー・スピリット・高い行動活性、いうならば、ある良い意味での攻撃的性格(aggressiveness)を持つ証券マンが、はっきりと高い利益率を上げているという報告なのです。
 細かいことは後で説明しますが、男性の血中男性ホルモンは日内変動があり、午前が高く、午後は低くなるのですが、利益率の高低で、その午前中の男性ホルモン値レベルを分析した所、図Bの様に、利益率の高い証券マンたちは男性ホルモンが低い人たちより、優位に高いことが明らかになっております。

 そしてもう1つの研究では、図Cの様に、その利益率の高い証券マン達は人差し指(2D)/薬指(4D)比が優位に小さい人差指が短いことを証明しているのです。

 胎生期の骨格の性分化時に強い男性ホルモン・シャワーを受けると性格的に積極性の強いよりaggressiveな男性性格が高くなるということを、人指し指(2D)が薬指(4D)に較べて短くなる、2D/4D比が小さいという所見を利用して説明しているのです。男性ホルモンが高い人と同じ原理で、性格的に行動活性が高いことを示す、人差し指の短い証券マンがやはり高い利益率を上げていることを証明しております。
 しかも、証券マンでキャリアーが長く、高利益率を上げ続けている人々は図C見られる様に、殆どが2D/4D比が低い人達であり、それはその様なタイプの人でないと証券マンとして利益を上げ続けて、難しい仕事の中で生き残れないことが示されているといえます。

 要するに積極的なアドベンチャー気質の高い行動活性の強い男性ほど、危険性も高い仕事に勇敢に向かっており、それでの成功率も高いという分析結果を出している訳で、これが経済界の人々から、また社会的にも、かなり注目を集めている話題を浚らっている報告です。
 その為か、先日も、それが朝日新聞やフジテレビの特別番組などでも、トビックスとして紹介され、かなり市中の話題となっておりました。

 ここまでの説明でお判りいただいたと思うのですが、各人の男らしさには、2つの要素があり、生得の因子と、それを促進する生後の因子が折り重なっている訳です。問題は、そのどちらが前面に出て、日常的な男らしさを規定しているのかということになると思います。
 細かいことは色々あるでしょうが、やはり生得の脳の男性化が、基本的な個人の気質を構成しており、それが生後の条件により変動すると考えるのが、臨床的な流れではないかと感じております。そこに何度も述べている“生き物人間の本質”を見る思いがしている訳です。

 そこで、さらに説明を進める前に、もう一つ説明をしておかなければならないことがあるのです。それは胎生期に胎児に影響を与える男性ホルモンは、胎児自身の睾丸から出るものだけでなく、自分の副腎から、さらには母親の卵巣や副腎からの、また母親が服用した薬や2卵性双生児の相手の男児からの男性ホルモンがあり、それは特殊な場合を除き、性器の男性化にまでは影響しないが、その後の性分化には、それなりの影響力を持っているのです。

 男児の場合は、自己睾丸からの男性ホルモンの作用が強いので、その他のホルモンの影響は左程ないのですが、女児の場合はそれがかなり問題となるのです。その影響で、女性でも人差し指が薬指よりかなり短くなることもあり、気質の強い人にしているのです。そこで少し人指し指/薬指の比の問題を次回に説明しましょう。

 

>>>『男をもっと知って欲しい』バックナンバーはこちら

 

筆者の紹介

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熊本 悦明(くまもと よしあき)

日本Men’s Health 医学会理事長
日本臨床男性医学研究所所長
NPO法人アンチエイジングネットワーク副理事長

著書
「男性医学の父」が教える 最強の体調管理――テストステロンがすべてを解決する!
さあ立ちあがれ男たちよ! 老後を捨てて、未来を生きる
熟年期障害 男が更年期の後に襲われる問題 (祥伝社新書)

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