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「アンチエイジングの専門家がナビゲート」(ガイド:熊本悦明

人が男になるには、2つのステップの男性ホルモンのシャワーという男性化機序が作動している

 

§男を創るには、2段階の作業機序が動く
 ところでこの“男とは何ぞや”との議論を、医学研究者の考え方に立って進めていく場合は、全体の性分化のイメージが十分頭の中にあるので、その中の一つ一つの細かいことを分析検討していきながらも、さして頭の中で混乱しないのですが、一般の方々に初めから各論が入ると、何が何だか解らなくなるのではないかと思います。そこで話をもう一度、一歩引き戻して、まず“男創造物語の大雑把な全体の原理”を少し解説しておき、読者の方々に男性化全体像をまずイメージしていただきたいと思っております。

 男になるという話を理解することは、少し言い過ぎかもしれませんが、今自信を失いつつあり、パートナーの女性群から、“弱くなりましたね”などと言われる心弱き男性方が、自らの立場を、自虐的でなく見直して、男としての自信をしっかり持って頂くことにつながります。さらにいうならば、男性の心のrevitalizationの為の、根源の見直しとでも言いましょうか。

 今までの性分化に関する一般教養の解説の殆どは、高名且つ弁の立つ優れた生物学者や動物学者がその豊かな知識をそのまま人間にまで広げて、少し得意気に話されておられます。文科系の性教育関係の方々が、その解説に社会心理学的調査資料を一足飛びに重ねて、人間でもそのとおりになると議論しておられたのではないでしょうか。
 それを繋ぐ一番大事な人間医学を飛ばしての思考体系には、筆者の様に、臨床医学的に人間の男に、50年も付き合って「男・男」と言って暮らしている医学者にとっては、その議論の繋ぎ方に、どうしても少し違和感があるのです。

 ところが最近、人間の臨床心理学的アプローチに、医学的検討を重ねる流れが、徐々に進みつつあり、動物学的な綺麗な実験成績はないにしろ、やや漠然とではあるが、人間さま本位の、人間の多面的な性差についての知見が出てきております。そして興味あることが明らかになりつつあります。
 前述の性器の形態につても、臨床医学的検討が進んできていますし、さらにその性器の性分化後の心身の男性創造物語についても、かなり臨床医学的な分析研究も発展して来ております。生物学や動物学の意見とはやや違った、臨床男性医学の立場からの知見がかなり揃いつつあり、今まさに、この分野の研究が面白くなって来ている所といえます。

 さて話を戻して、人が男になるには、何があるのかということを考えてみたいと思います。それには、上図のように2つのステップの男性ホルモンのシャワーという男性化機序が作動しているのです。(1)生前の母親胎内での男性化機序と、(2)生まれた後、ことに思春期以後の男性化機序との2つの男性化機序が折り重なって、かなりな生き物人間としての生物学的機序が個々人それぞれで動いて、生物学的な性的性格・性役割を持つ個人個人の男性像が創り出されるのです。(乳児期の男性ホルモンのシャワーは胎生期のそれを増強する役割と考えられております)
 この話をすると、ボボワールがいったという、“女は女として生れるのでなく、女に創られるのである”という教育により性差・性役割は形成されるという教育優位論を信じる教育学者方からは、かなり強い反論が出るかもしれません。その方々の最も極端な主張により、小学校の運動会の100m競争などで、創られた性差や優劣などあってはならないので、皆同じと理解する為に、男・女仲良く手をつないで皆一緒にゴールさせるという、笑い話にならない現実のエピソードが各地で起きています。
 そのような指導をしている立場の教師達から、教育優位論的反論が出るかもしれませんが、何と言われようとも、医学生理学的にはそんな生物学な生き物人間の本質を否定する社会学と医学を混同する論理ほど、馬鹿げた事はないのです。人間はそもそも“生き物としての制約”の下で生きている、ということを忘れないで欲しいものです。

 嘗て1940~1950年代に、男女の性差は教育生活環境から人為的に創られるのであって、3歳まで育てられた教育上の性は、たとえ性分化異常例でその性判定が間違っていても、その性は固定されてしまっているから、“それ以後の性転換は行うべきでない”という主張が一世を風靡しておりました。
 それは、米国ジョン・ホプキンス大学精神科のT. Money教授の学説であり、また南太平洋の土着民族の研究をした人文科学のマーガレット・ミードの性差は生活環境で創られるという性差環境説も加わって、その論理を信ずる風潮が我が国の教育界にかなり広まっておりました。
 その学説に対して、そんな馬鹿なことはないという思いが強く、それに反対の立場から、筆者は男性創造の生物学的意義を研究すべく臨床医学研究を始めた訳です。そして、かなりな年長者でも、例えば既に女学校も卒業している成人男性半陰例を性転換し、履歴書を書くのが困ると嘆く患者さえも、適切に新しい性に適応させ満足させている経験などもあり、今まで20数例の性転換を行っている経験から、やはり教育による性役割獲得より、胎生期に方向づけられた生物学的性の性格が強く出てくることを確信しております。個人の男女の性自認には、生得の性的性格が優位性を持っていることは間違いないと、確信を持っております。正常な男児・女児の2-3歳の幼児期で、親の躾などが始まる前から、遊びに男女の性差がかなりはっきりしているのは、親達は皆経験していることではないでしょうか?

 そして今や、かつて流行し重視されたMoney教授学説は、現在の性同一性症例が問題提起している議論の中で、完全に否定されるようになって来ております。ところが驚くことには、今だに、Money学説を後生大事に思っている教育関係者がおり、“男も女も一緒と、手を繋いでゴールイン”をさせているのが不思議でなりません。医学と社会学との違いの理解が、この男女同権時代に最も基本的に求められている所ではないでしょうか?

 いまこそ男の男たる由縁は何かを、根本的に生物学や医学的観点から、科学的に分析検討すべき時代になりつつあり、それでこそ男女お互いに尊敬しあう世の中になると信じております。

 

>>>『男をもっと知って欲しい』バックナンバーはこちら

 

筆者の紹介

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熊本 悦明(くまもと よしあき)

日本Men’s Health 医学会理事長
日本臨床男性医学研究所所長
NPO法人アンチエイジングネットワーク副理事長

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