アンチエイジングニュース

「漢方薬成分が、脳神経損傷を回復」――ハセ博士のヘルシー情報最前線(179)

漢方薬の薬効成分である桂皮、陳皮のフラボノイドが、アルツハイマー病などに伴う脳の神経回路の損傷を回復させる働きがあることが、明らかになりました。

これは、東京都老人総合研究所の阿相皓晃・老化ゲノム機能研究チームリーダーらが、マウスを使った実験で明らかにしたものです。

脳の神経細胞は互いに突起を伸ばし、その接点のシナプスで神経伝達物質を分泌し、情報を伝えています。
この情報伝達には、突起を包む髄鞘(ずいしょう)という構造が必須で、認知症患者の一部ではその髄鞘の構造が壊れていることが分かってきています。

そこで研究では、先ずマウスの髄鞘の形成にかかわる2種類の遺伝子を特定し、次にこの遺伝子を活性化する薬効成分について探索を行いました。

その結果、漢方薬の薬効成分である、フラボノイド類の桂皮(けいひ)と陳皮(ちんぴ)に含まれる成分が、先程の2種類の遺伝子の働きを高めることが分かりました。

実際に、桂皮と陳皮を含む漢方薬を髄鞘の破壊が進んだ高齢マウス(2歳半)に2カ月間飲ませたところ、2種類の遺伝子の働きが高まって髄鞘の構造が元の状態に戻り、運動能力も若いマウス(6カ月)と同程度に回復したそうです。

今のところ、マウスを用いた結果に過ぎませんが、今後ヒトに対する臨床試験を行う予定だそうで、これらの成分は市販の漢方薬にも含まれている成分で、大きな副作用もないことから期待が強まっています。

ちなみに、脳の基本構成単位は神経細胞とグリア細胞ですが、脳機能の主役を演ずるのは神経細胞であり、グリア細胞はあくまでも脇役といわれていたのだそうです。

しかし、最近の研究によりますと、老化によって神経細胞のダメージはそれほどでもなく、むしろグリア細胞の方が大きなダメージを受けることがわかってきました。とりわけ神経細胞の神経線維(軸索)を覆うミエリンの減少が著しいとされています。

また最近の報告ではミエリン関連遺伝子やミエリンそのものが遺伝性痴呆・精神障害で減少したり、異常を示す事が明らかになってきています。

以上の結果を基に、阿相先生らは、老化によるグリア細胞の障害機構の解明は老人性痴呆の治療および予防法の確立に役立つと考え、研究を続けられてきました。
また、ミエリンの新生・脱髄/再生における漢方薬の作用についても、研究を続けてこられ、今回の発見につながった訳です。

漢方薬は古来から使われているものだけに、再発見とその有効性の確認に期待が持たれます。

ハセ博士=薬学博士。国立大薬学部や米国の州立大医学部などで研究や教官歴がある。現在は製薬企業で研究に従事している

  • facebook Share
  • Tweet
  • LINE

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう
最新記事をお届けします

カテゴリ一覧