アンチエイジングニュース

「アンチエイジングの専門家がナビゲート」(ガイド:麻生武志

女性の一生を左右する思春期
生涯にわたる健康の維持・増進のための生活能力を育むために

 

◎思春期に築く礎がその後の人生を支える
思春期のアンチエイジングについて話をする前に、まず”アンチエイジング:抗加齢”という言葉とその意味について触れてみたい。私は現在一般的に用いられているこの言葉とその意味は、健康を考える立場からは適切ではないと考える。”加齢”という変化は生まれたときから誰にでも始まる自然の摂理であり、単に老化や退化へのプロセスではない。従ってそれに抵抗するという考えよりも、むしろ今自分のいるライフステージを最大に健やかに過ごす前向きな姿勢と、将来を見越した積極的な実践行動が大事である。50歳の女性を20歳に戻すということは、そもそもありえないわけで、女性は各年代に応じた美しさがあり、またライフスタイルや健康状態もそれぞれの年代で変化するものである。以上のことを前提として生涯にわたる健康の維持・増進のための思春期の重要性を理解すべきである。女性が人生のゴールに近づき自分の一生を振り返った時に、「健康で楽しく充実した日々を過ごし、また仲間や家族の愛情に囲まれた生活がそこにあったと実感する」ことを究極の目標として、いろいろな方策を考え実行することが本来の”アンチエイジング”である。その中で人生の礎となる思春期での生活能力の育成は極めて重要であり、特に女性にとっては多くの面でエポックメイキングな時期でもある。

加齢現象は、思春期に既に始まっている。ただしこの時期の加齢は精神・身体機能が発達する上向き加齢である。次いで訪れる諸機能が成熟する時期を経た後に下降傾向の加齢へと転じことになる。つまりは、思春期においてその後の人生をどう捉え、どれだけの機能を獲得し、またその時期をどう過ごすかによって、人生全体の生活の質が大いに左右されると言えよう。ここに女性のライフステージにおけるアンチエイジングの中でも思春期におけるその重要性を強調したい。

◎健全な思春期のために
思春期における心身の健全な発育のベースともなるのは、心身の調和のとれた成熟であり、その基盤となる人間性を高め、また適切な生活習慣を培う場である家庭・社会の役割と責任は大きい。最近のニュースとして、家族を巻き込んだ凄惨で不幸な事件が多く報道されているが、その背景として人間としての未熟性が大きな要因となっているケースが多く、成長・発達過程における家庭や社会環境が影響していると考えられる。身体的には成長しているが精神的発達がそれに伴わず、人生の目標設定や日々の生活での目的意識が欠落しており、直面する出来事に対する対処ができずに結果的に大きなストレスを抱え込んでしまい、自己中心的な自暴自棄な手段におよんだ結果と言えよう。また人間性の涵養には人間同士のコミュニケーションが不可欠であるが、現代社会での携帯電話やパソコンの普及によって、「顔を見て、肉声を聞いて、瞳を見ながらのコミュニケーション」の機会を奪っている現状は、心の触れ合いを妨げ、人間社会の基盤となる相手の立場を理解する能力が欠如した人物を生み出す要因をはらんでしる。

次に日常生活での健康状態に直結する主な要因である睡眠と食習慣<について述べてみたい。先ず睡眠であるが、今日の生活環境には、昼夜を問わず放映されているテレビ番組、またパソコンやゲームなど睡眠を妨げるアイテムが充満しており、これらの誘惑によって生活のリズムを狂わせ、睡眠の質と量が低下している若者も少なくない。睡眠のリズムと生体の主な機能に密接な関連があることは多くの動物実験や臨床試験によって既に明らかにされている。睡眠リズムの変調は、調和のとれた生体の機能を総合的にコントロールする中枢からの刺激パターンに異常を招き、ホルモンの産生分泌の乱れもその影響の一つである。特に女性では、思春期に入り卵巣機能が稼動を開始するために必要な中枢(視床下部)からの刺激ホルモン分泌が障害されると、その後の生殖機能の発達に影響を及ぼす可能性がある。思春期世代には、1日の生活のリズムを一定に保ち、日中に健康的に身体を動かすことで、自然で安らかな睡眠に入れるように心がける。睡眠剤やアルコールなどに頼ることで一見寝ているようでも、実際には十分な睡眠になっていないことも多く、覚醒後に正常な機能を発揮できないことにもなる。

次に食習慣についてであるが、摂食障害によって月経不順に陥る若い女性が最近は少なからず見られる。その背景をとして両親の不和、兄弟との葛藤などの家庭環境に起因する精神的なストレスがあげられる。また体型に対する歪んだ感覚からくるコンプレックスから過度なダイエットに走るケースも思春期に多く見られる。不適切な食習慣による短期間での著しい体重減少によって引き起こされた月経異常の一部は、体重が元に復しても改善しない場合もあり、その後の健全な心身の発育に重大な障害となる。また食事の内容にも注意しなければならない。食事内容の西洋化は体格に変化をもたらして身長の伸びをもたらしたが、一方では伝統的な日本食の持つ利点が生かされていない面がある。その結果、肥満児、若年性糖代謝異常(糖尿病)が増え、将来のメタボリックシンドロームの予備軍の増加が懸念される。思春期の食習慣と食事内容と骨の発育にも密接な関連があり、近年の食生活の乱れが骨量の少ない女性を増やしている可能性が指摘される。生涯において骨量が増加し蓄積され最大骨量に達するのは思春期から20歳前半までの時期である。その後は年齢とともに徐々に骨量は減少し、閉経後に急速な減少を来たすパターンをとる。骨量が一定レベルを下回ると骨粗鬆症のリスクが高まり、さらに骨折を起こしやすい状態へと進行する。この様な骨量の生涯を通じての変化から、更年期での減少を抑えることは必要であるが、閉経以降の急速な減少に備えて思春期での十分は骨量の獲得・蓄積がさらに重要かつである有用であると言えよう。一旦骨折が起こると身体活動が制限さるて当人の生活の質が極端に損なわれるのみならず、家族・社会にも大きな負担を強いることになるので、若い時期・思春期からの対策として食事や運動を中心とした適切な生活習慣を身につけることの重要性を強調したい。

◎思春期後のライフステージの健康と幸せのために
思春期における心身の発達・発育の基盤の上に性成熟期の生活が営まれるが、このライフステージでの女性に特化した最も重要な特性は、定まった周期で発来する月経であり、妊娠を可能にする生殖機能が確立することである。そして月経周期や妊娠の成立を妨げる種々の問題が思春期において発生することに留意しなければならない。その中で先ず、性に関する問題があげられる。初めて性交を経験する年齢は近年若年化しており、これと関連する問題として若年者の望まない妊娠があり、また性行為によって感染する性感染症がある。十代での人口妊娠中絶経験は単に身体的なリスクであるばかりでなく、精神的なトラウマとしてその後の人生での性生活に影響し、また近年若年層での増加が見られるクラミジアなどによる性感染症は、将来の妊娠の成立を困難にするリスク因子となる。子宮がんの一つである子宮頸部がんでの発生に、ヒトパピロマウィルスの感染が原因となることも証明されており、男女を問わず思春期に性と性行為・避妊・家族計画などについての正しい知識と態度を身につけことは、自分のみならずパートナーの健康を守る上で重要である。

規則的な月経周期があることは、女性が健康であることを示す最も基本的なバロメーターである。一定のリズムでホルモンが産生され排卵のある月経周期は妊娠の成立に不可欠であり、また女性の心と身体を健全に保つための基本となる。しかし月経周期を正常に維持するメカニズムは極めえデリケートで、種々の要因によって容易に障害されて異常を生じる。精神的なストレスや過剰な身体的な負荷は月経周期を乱し、排卵を抑制し月経の停止を(無月経)引き起こす。一方排卵が抑制された周期では不正出血が起こることがあり、時には長期にわたり出血が持続するために貧血に陥る場合もあり、思春期にもよく見られる。月経の開始前や開始後には様々な症状を自覚するのは一般的であるが、一部の女性ではその程度が日常生活の支障となることがある(月経困難症)。生殖機能の発育段階にある思春期でのこの様な症状は、その後の成熟により解消する場合が多いが、中には長期間症状が持続し、または増悪することもある。「生理不順」とか「生理痛」として薬局で市販されている薬での対応が行われていることが多いが、それはあくまでも対症療法であり根本的な治療ではない。症状が長期にわたり、また増悪する傾向がある場合には診断と治療のために専門医を訪れて欲しい。病状が進行すると治療が困難なこともあるので早期の診察は重要である。しかし思春期の女性に婦人科の診察を勧める際にネックになるのが産婦人科受診に対する抵抗感のために躊躇することである。多感な思春期だからこそ、どうしても足が遠のいてしまう。しかし、女性診療科やレディスクリニックなどとしてニーズに応える診療施設も増えており、今後もさらに整備されていくので、自分の健康は自分が管理するとの姿勢を持ち、そのような医療施設を活用することを奨めたい。

引き続き次回からは、思春期からのアンチエイジングについての要点を、具体的なアドバイスを含めて紹介する。

麻生武志
NPO法人アンチエイジングネットワーク理事。東京医科歯科大学名誉教授(前・産婦人科教授)

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