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美とエロス

プラトンの対話篇の一つに「饗宴」という名作がある。シンポジウムという言葉はここから出てきている。要は食事をしながらある課題について、みんなが意見を述べ合う。エロスについての議論が「饗宴」として記録されている。


それを読むと、エロスと愛と美とは同義ではないにしても、ほぼ同じように使われている。ただギリシャ語の場合、「愛」というものは肉体的な要素はエロス。もっと精神的なものはアガベーと分けているようだ。それを前置きにして、「饗宴」の中の一説では、人間は元来、男女だったという。
男と女はお腹がくっついていて一人の人間だったのが、ある時いう事を聞かぬ人間を神様が罰する為に、男女を二つに切って二人の人間を創った。それまでは、男と女は八本の足でくるくる回転しながら歩いていたそれを二つに切って、顔の向きを変え、性器も動かし、最後にお腹の切った部分を縫って最後に寄せられた部分がおへそである。つまり何を言わいいたいのかは、人間は割符みたいなものだということである。こうして無理やり裂かれた男と女は、この世ではお互いの割符を求めあう。そして割符同士が巡り合って一緒になればめでたしめでたしだが、時々間違った組み合わせだと悲惨なことになる。ギリシャ時代には男同士の割符などもあって、いわゆる少年愛、今ならゲイということになる。
そして「饗宴」の世界では愛もエロスも同義語とされている。
ただし、エロスにも二種類あって、上等なものは美を目指して、それが善につながっていく。よく容貌の美しさが性格の良さにつながるかどうかが議論になるが、少なくともギリシャの頃は、美は善であると考えられた。
そして下等なエロスが性欲で、猥褻に通じるとされた。
人間は元来動物的な部分を抱えているが、それに加えてさらに大脳が発達したのが特徴である。動物性と判断力、その相克が人間の抱える矛盾である。あえてプラトンが二種類に分けたエロス、その上等と下等とが判断力と動物性ということになるのではなかろうか。
それを前提としてこれから美とエロスの関係を探ろうと思う。我々の感覚の中には視覚と聴覚と触覚、臭覚、味覚などいろいろ有るが、視覚を中心に美というものを考えると、どうしても絵画が一番易いので、まずはギリシャ美術からスタートする。
ギリシャの時代には裸体がそれに近い状態が日常だったようで、裸体美というものが非常に尊重され、それが彫刻にも反映されている。
やがて中世に入り、キリスト教の文化になるとヌードは姿を消した。それがまたルネッサンスで復活した。これはあくまで神話の世界での裸である。だがそれでもミケランジェロの天地創造は物議をかもし、一時期裸に腰布が書き足されていたという。
そして日常生活の中で人間の裸体が描かれるようになったのは19世紀になってからで、マネの「草上の午餐」がその走りである。よく考えれば、ピクニックで女性だけが裸体というのは実際にはありえないので、当初は物議をかもした。だがこれがきっかけで西洋美術の中、神話ではない普通の女性のヌードの立ち位置が決まった、そういう意味のある絵である。
こうして今では泰西名画と言うとヌードが前提になっている。だが改めて考えてみると、何かおかしいのではないか。少なくも男性の場合、ヌード作品をただ純粋にアート作品として鑑賞できるだろうか。先ほどのプラトンのいう上級のエロスだけでなく、下等なエロスの働きも潜んでいるのではなかろうか。さらに言えばアーティスト自身も、芸術の衣で下等なエロスを隠していることもあり得るのでは、という疑問である。少なくとも、クリムトの場合はそれに近いのではなかったろうか。


今一つ気になるのは恥毛の扱いである。ギリシャの昔から女性の場合恥毛は描かれていない。男の場合は恥毛だけでなくペニスまで書かれているのに。美女の歴史の時に触れたように、西洋では昔から、顔は高貴だが下にいくほど下賤だからなるべく衣服で隠し、まして隠部は存在しないかのように振る舞うのが普通であったが。

 

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Dr.SHIOYA2 塩谷 信幸(しおや・のぶゆき)
アンチエイジングネットワーク理事長、北里大学名誉教授、
ウィメンズヘルスクリニック東京名誉院長、創傷治癒センター理事長

現在、北里研究所病院美容医学センター、医療法人社団ウェルエイジングAACクリニック銀座において診療・研究に従事しているほか、日本形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会名誉会員として形成外科、美容外科の発展に尽力するかたわら特定非営利活動法人 アンチエイジングネットワーク理事長、日本抗加齢医学会顧問としてアンチエイジングの啓蒙活動を行っている。

【著書】
一年で一歳若返る/アンチエイジングのすすめ(幻冬舎)
美容外科の真実/メスで心は癒せるか?(講談社)
40代からの/頭と体を若返らせる/33の知恵(三笠書房)
「お若いですね」と言わせよう。(ゴルフダイジェスト)
など
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