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和の心

東大の本郷キャンパスの裏の一郭に林町というお屋敷街がある。その和風の屋敷街の一つに、僕は医学生当時、毎土曜放課後に通っていた。お茶の勉強である。そこは武者小路千家、またの名を官休庵というが、彼のお稽古場だった。
男は僕一人、しかもあぐら御免という、言わばみそっかす扱いであった。
当時僕には西陣に友人がいて、休みのたびに京都を訪れていた。もちろん機織りが家業だったが、夜になると近所の人々が集まって、お薄を楽しんだり、鼓を打ったりして宵を過ごす。 “あ、今日は満月”と誰かが言えば、“では大覚寺に行こうか。”と皆で花見に出かける。あ、これが風流というものかと、新興都市東京に育った僕にとってはカルチャーショックであった。


そこで知ったのが千利休の故事。お茶会の朝。路地に咲いていた朝顔でしたかな、を全部切り捨て、ただひとつだけ残した。芸術は切ることにあると周囲は感嘆したという。そのエピソードにすっかり痺れて、柄にも無くお茶を習うことにしたのである。
花の生け方にしても西洋ならば盛り花だが、日本の文化では一輪挿しである。これはまた和の文化の特徴、余白の美にも通ずる美意識である。
「秘すれば花」という言葉がある。その出典は、世阿弥の「風姿花伝」。
その心は「全てを明らかにせぬことに美の要諦がある」と言えよう。例えば絵画。西洋の絵はキャンバスの隅から隅まで、ばっちり書き込む。それに反して日本画は、特に水墨は、余白の美を尊ぶ。
つまり世阿弥にとってお能の世界における「秘すれば花」とは、全部を見せないで、少しの事を象徴的に表現し、観客の想像の翼を助け、表現にふくらみを持たせる術である。
ただ、代表著書に「失楽園」をもつ渡辺淳一は、どこかのエッセイの中でこう言っている。世阿弥の考えていた「秘すれば花」とは、観客を油断させて、その意外性で観客を楽しませるという能の演出の一つということだけでなく、もっと生臭い戦国の武将の心得でもあったという。平たく言えば、手の内は隠して、相手を油断させるということまで含んでいたそうだ。

 

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Dr.SHIOYA2 塩谷 信幸(しおや・のぶゆき)
アンチエイジングネットワーク理事長、北里大学名誉教授、
ウィメンズヘルスクリニック東京名誉院長、創傷治癒センター理事長

現在、北里研究所病院美容医学センター、医療法人社団ウェルエイジングAACクリニック銀座において診療・研究に従事しているほか、日本形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会名誉会員として形成外科、美容外科の発展に尽力するかたわら特定非営利活動法人 アンチエイジングネットワーク理事長、日本抗加齢医学会顧問としてアンチエイジングの啓蒙活動を行っている。

【著書】
一年で一歳若返る/アンチエイジングのすすめ(幻冬舎)
美容外科の真実/メスで心は癒せるか?(講談社)
40代からの/頭と体を若返らせる/33の知恵(三笠書房)
「お若いですね」と言わせよう。(ゴルフダイジェスト)
など
ブログ『アンチエイジングブログ!』更新中

 

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